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金鳳花 26
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「やっぱり奴なのか?」
男の左腕を睨んで鶯の鬼は言った
白い男は目の前の鬼を見据え
言葉を選んでいるのか黙っていたが
左腕の鎖が短くキンッと鳴る
鬼は瞬時に身構えたが
男の術が今度は十分に効いているのか
ソレ以上は何も起こらない
「焔………焔蜥蜴と言う鬼が確かにここには居た」
「だが」
「それも80はゆうに数えて昔の事だぞ」
白い男が物憂げに静かに語る
鶯の鬼は何かを言いかけたが
そんな男の様子に再び縁側に腰を落ち着けて
「その話しは」
「今はまぁいい」
渋々と言った様子でもあったが
鬼がひとつ伸びをしながら悠々と話す
「それで」
「貴様の名はなんだ?」
白い男の中で遠い記憶の紅い鬼の言葉が耳奥でだぶり
その不思議な感覚に無意識に鶯の鬼を見つめる
「どうした?」
「貴様が俺を魂繋ぎして捕らえたんだ」
「どうにかなるまでここにやっかいになるんだからよ」
「名がわかりゃぁ術も使ってやれるぜ?」
鶯の鬼はその鋭い牙を覗かせてニヤリと笑う
「余計な術は要らぬ」
鬼の毒を思い出し男は諌める
「それに儂に名などない」
そう言ったきりまた男が黙ってしまった
「人間には名があるんだろ?」
馬鹿にされているのかと鬼が少し苛ついた様子で話す
「儂は………人では…ない」
自身の左腕を軽く握り男が少し苦し気に言うと
鬼は呆れた様に
「元々人間だろ?」
「そん時呼ばれてた名があんだろうがよ?」
催促する様に鬼が促す
「人依り代〈ヒトヨリシロ〉」
「または傀儡〈クグツ〉か?」
男が自傷気味にそう言い
過去に呼ばれた紅い鬼の付けた名は口にしなかった
「変な奴だな………」
嫌味ではなく
男の過去を思うとそう呼ばれていたという境遇に
鬼は変だと言った
「俺は狗翠〈クスイ〉」
『しゃあねぇな』と言って鬼は自身の名を告げた
「名がないなら俺がつけてやる」
そういうと考えるような素振りをする鶯の鬼
狗翠〈クスイ〉
うーんと顎に手を当てて目を瞑り唸っていたが
なかなか思い付かないのかその目を開く
目の前に広がった中庭の
黄色と白の金鳳花が狗翠の眼に鮮やかに映り
「うん」
「お前は姫一〈ヒメイチ〉だな」
そう言って足下に咲いた白い金鳳花を摘み
白い男〈姫一〉に向かって差し出した
再び姫一と名付けられた白い男
その瞳に映る白い華は今も昔も同じ姿で
彼の目の前に差し出されている
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