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豊年
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数日後。
ぼくは゛つぶあんのオジサン“こと、岩田さんに電話した。
そして、家出は取り止めにしたことを伝えた。
岩田さんは、ふん、ふん、と相槌を打ちながら、ぼくのたどたどしい話を聞いてくれた。
「ほいでよ。あのカレシとは、どうなったんや?」
―カレシって
長峰くんのことだよね?
「えっ?どうって…別にどうもしないよ。」
「嘘ばっかし。なんかあったろ?」
お見通しと言わんばかりの言葉に、ドキン、と胸が大きな音をたてた。
「あん時は、カッコ良かったもんなぁ~?」
「っ!」
たしかに、あの日から長峰くんは、ぐんと頼もしさや、男らしさが増してて
ちょっとうっかりすると、見惚れてしまいそうになる位だ。
「なっ、長峰くんは、今も良い友達だよ。」
昨日も会ったけど。
ブドウ、貰っただけだし。
そもそも、彼はストレートなんだろうし…。
「ほおー。…まぁええわ。その内むこうに吐かせるで。」
―ええっ!?
「ちょっ!岩田さん!?」
「そっしゃ。おやすみー。」
通話が切られたスマホを持ったまま、ぼくは固まった。
―岩田さんてば
長峰くんにもメモ、渡してたのかな?
もしかして。
き、気に入っちゃった、とか?
だから、また、会いに来るのかも…。
堪らずぼくは、画面をタップした。
「ん、結城か。どした?」
寝転んでるのか、気だるげな声を耳元で聞いて、一気に心拍数が跳ね上がる。
「あ、あのさ?あのオジサンに電話してみたんだ…。」
「ああ、この前の車の人か?それで、何て言ってた…?」
「少し話、聞いて貰っただけ。他には何も言ってなかったよ。」
まさか、ぼくらの仲を訊かれたとは、言えなくて、適当にごまかした。
それがまずかったのか
「なぁ、結城。もしかして、口説かれたんじゃあ、ないよな?」
怪しむような、不機嫌な口ぶりに、ぼくは訳も無く、慌ててしまう。
「ま、まさか!何、言ってんの?それにあの人は、別にそんなんじゃ…」
アタフタと応えるぼくに構わず、長峰くんは真っ直ぐに突っ込んできた。
「なぁ。まだ、水沢さんのこと、忘れらんないのか?」
「ぇ…?」
誰にも言ってなかった筈のことを図星にされて
今にも息が止まってしまいそうな衝撃を受けた。
「なっ、長峰くん、い、きなり、何の…話?」
「ニブいな、結城。おまえ、まだ、解んないのかよ?」
「ぅ、…うん。」
呆れたような声音に、自然と返事も小さくなった。
「もう、俺にしとけって。」
「っ!?」
心底、驚いた。
「だからさ。これからも、一緒にタイヤキ食おうって、言ってんの。」
―タイヤキ。
素朴で、馴染みのあるあったかさが、胸の奥まで、じわりとしみた。
「うん。」
『今年は世が良い
豊年年よ
マスではからず
ミではかる
めでためでたの
若松さまよ
枝も栄える
葉も繁る』
祭りの次の週になると、一斉に稲刈りが始まった。
ブドウの次は、ヤキイモ。その次は、炊き込みご飯。
長峰くんから貰う、小さなしあわせも、故郷の実りに合わせるように、少しずつ彩りや深みを増して
ぼくの胸を毎日満たしてくれている。
[了]
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