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ゆびきり-4
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二人が信吉の家が見える辺りまで来ると、白衣を来た男が駆け寄ってきた。
―珍しか。
あの米田先生が、走りよる。
信吉は、その男が近付いて来るのを目を丸くして見た。
米田が一歩踏み出す度、顔を強ばらせた少年が、少しずつ後退っていく。
その手をやんわり後ろ手に掴むと、信吉は殊更のんびり声を掛けた。
「おー。米田先生。こないに早ようから、どげしたと?」
「ああ、結城さん。お早うございます。」
返事をしながらも、米田医師はピリッとした視線を少年に向けた。
「すんませんなぁ。ウチの子が御迷惑をおかけしまして…。」
「いいや、それがな、先生。こっちが助けて貰うたんよ。」
「…はぁっ?」
首を傾げた米田に向かって、信吉はこう告げた。
「そこの大宮さんでよ。デッカいクチナワをな、追っ払ってもろうたんじゃ。助かった礼をやりたいで、そこで待っとってくれんね。」
そういいながら、玄関を開けた信吉に、米田は戸惑いを隠せないでいた。
「…はぁ。しかし、結城さん。息子はそろそろ登校の時間ですんで。」
「ああ、そうな。なら、すぐそこにある物にせんといけんな。」
奥へ入った信吉は、細長い桐箱を手に出てきた。
「ええっ!?ゆ、結城さん!!コレだけは頂けません!どうか、そのままコチラへ置いて、そのぅ…。」
父が必死で押し戻そうとしていた箱を、少年の手がサッと取り上げた。
「何コレ?」
「…脇差しじゃ。」
「ふうん。…いいね。」
少年はそのまま、玄関を出て行った。
「大事な形見をウチの子なんぞに…。結城さん、ほんまに宜しいんですか?」
その問いには答えず、信吉は米田に訊いた。
「あの子は、幾つんなるですか?」
「多穂は14。いや、そろそろ15になります。」
「そんなら、あれは儂からの祝いじゃ。取ってくれんね。」
「…分かりました。有り難うございます。」
深々と頭を下げた米田は、神妙な顔付きで、ゆっくり歩み去った。
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