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6日目
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仕事上がりの時間に、幼馴染が店に来た。今人気絶頂のモデルくん、峰打幸って言ったら分からない人はあんまりいないと思う。それぐらい雑誌やテレビに出まくりの幸。サングラスなんてしちゃって、芸能人オーラをかき消してるつもりみたいだけど、背高いし髪は長いしで、お前それ、絶対バレてるよ。
「ゆうちゃーん、来たよー」
「おー。なんか買ってって。」
「んじゃあねー、ゆうちゃんがコーディネートしてよー」
だるーんと、僕にもたれかかる幸。ちょっと、周りの目が気になるからやめて。
「一番高いのにするわ。」
「んー。」
「…大丈夫おまえ?話きいてる?」
「んー。アップルパイ食べたいねー」
「聞いてないね?」
アップルパイ、という単語を聞いて、この間のアレを思い出した。あー、今度行ったらまたなんか献上されんのかな、うーわー考えたくない。甘いもの怖い。もはや恐怖。
「こんど美味いアップルパイ出してくれるカフェ連れてってやるからちょっと離れて」
「焼肉でもいいよー」
「…ようは腹へってんのね」
ちょっとだいぶと抜けてる幼馴染。目を離したら死にそう。僕が実家にいるときは家が近所でよく遊んでたけど、僕が一人暮らしをはじめてちょっと離れたかと思えばこうやって時間をみつけては会いにくる。可愛い弟分だ。馬鹿だけど。
「こら、幸!今日撮影だっていったでしょ?忘れてたの?」
慌てた様子で店に入ってきた幸のマネージャーが、幸の腕を引っ張った。「あ、こんにちは」というと「こんにちは!すみませんほんと…」と申し訳なさそうな顔をされてしまった。こっちがいいたいよ、アホな奴ですみませんて。
「ほら、早く行きな」
幸を追い出すように僕も店を出る。マネージャーの車に幸を押し込んで「やーだー、ゆうちゃーん」という馬鹿に手を振って、僕はカフェに向かった。お願いします、今日こそは要らないケーキ、持ってきませんように。
からんころん、小さな鐘の音。僕はこの音がすき。…そして目立つね、そうそうに見つけてしまった、光村くん。光村くんは俺が来たことに気づくと、嬉しそうな顔をした。え、なにその顔。
そして注文は取りにこない。変わりにケーキのケースの前で慎重に『本日のケーキ』を選ぶ光村くん。いや、イケメンだけどね?その横顔、綺麗だけどね?
トレイにコーヒー、そして『本日のケーキ』を載せてもってきた彼は「いらっしゃいませ、」と甘い笑顔を撒き散らしながら言った。
女の子が歓喜で発狂しそうな笑顔だね、とか思いながら、僕はそれよりトレイにのってるケーキのほうに意識が向く。だってさぁ、だってね?とうとう来ちゃったよ、ティラミス。
甘いものレベルがアップしてるよなぁ、どう考えても。
「あー、あのさ、実は、」
「あ!そうだ!俺、今日あなたに渡したいものがあって、もって来たんですよ」
「渡したいもの…?」
もうケーキ貰ってるんだけど、これ以上になにもってくる気なのかな、この子は。どうする?「家で食べて下さい」とかいって、チョコとかクッキーとか渡されたら。考えるだけでゾッとしてきて、軽く戦慄してる僕の気持ちなんて知らない光村くんは、また裏のほうに小走りで消えていった。
ていうか、甘いもの苦手っていうタイミング逃しちゃった。しかも本日はティラミス。…ティラミスて。
絶望していると、奥から黄色いフタがされたタッパーを持った光村くんが小走りでやってきた。おいおい、またこけんなよ。とおもってたら、光村くんはちょっと躓いた。…ちょっとドジなの?
「これ、食べてください!昨日作ったんですよ」
これ、といって渡されたタッパー。
タッパーにぎゅうぎゅうに押し込まれたように入っているのは、肉とピーマン…。
「これ、なに」
「チンジャオロースです」
>>>チンジャオロース<<<
僕の心情はまさにこんなかんじ。ケーキの次はチンジャオロースを献上されてしまった。しかもこのタイミングで渡してくるんだ…ていうか作ったんだ…。一体どういうつもりなんだろ。チラっと光村くんの顔を見るとまるで「褒めて」と言ってるかのような目をしている。きらきらしている。
「ありがとう、チンして食うよ」
「はい!自信作です!」
そっか、自信作か。ひくひくと引きつる口元。おい、我慢しろ僕。純粋な好意を無駄にしちゃいけないだろ僕。
別の客のオーダーを取りに行った光村くんを少し見つめて、テーブルの上におかれたタッパーに目を移した。
ティラミスと、コーヒーと、チンジャオロース。どんな組み合わせなの。チンジャオロースの臭いが放たれるタッパーを、どうやって持って帰ろうかな、と頭を悩ませながらタバコに火をつけた。
…ほんと、どういうつもりなんだ。
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