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逃げないで
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あの後、アキちゃんと加藤さんのおかげで楽しく飲むことが出来て、終電が近くなってからバーを出た。
加藤さんがアキちゃんに声をかける。
「俺と小栗、○○駅方面なんだけど、アキちゃんは家どこ?タクシーで送るよ?」
「いえいえ!方向違うし、うち駅からすぐなので電車で大丈夫です!」
「佐藤くんは?乗ってく?」
「あ、えーと…電車で帰るので、大丈夫です。ありがとうございます」
小栗さんともうちょっと一緒にいたかった…
何か、このよそよそしい変な雰囲気のまま、別れたくなかった。
だけど、ここで一緒に乗って、加藤さんに何か気付かれたら嫌だし…断ることにした。
「そう〜?じゃ、気を付けて帰ってね」
「はい。今日はありがとうございました」
小栗さんは、何とも読み取れない表情をしてたけど「じゃ、お疲れ」と言って、加藤さんと歩き出した。
「あっ!小栗さん!!」
アキちゃんが何かを思い出したように小栗さんに駆け寄った。
そして小栗さんに耳打ちする様にして、何かを囁く。
小栗さんは一瞬驚いたように目を開いたけど、すぐ真顔になって、アキちゃんには何も言わずにその場を去った。
「アキちゃん…小栗さんに何て言ったの?」
「秘密です〜」
駅に向かいだしたアキちゃんを追いかける。
何を言ったんだろ。気になる。
「気になりますか?」
「えっ?あ、いや…」
「ははは……
あーあ。まさか告白しようとした日に、あんな顔見せられるとはなぁ〜」
アキちゃんが空を見上げた。
満月に近いのか、月が明るい。
「……」
「佐藤さんの百面相、貴重で、面白かったです」
「百面相?」
「好きな人いないなんて…嘘ですよね?」
「え?」
「え?…って、誤魔化してるんですか?…まあ、何にせよ、私には入る隙がないことが分かりました」
「あの、何の…話し?」
「だーかーらー、私、分かるんです。佐藤さんの事、ずっと見てたんですから。今日みたいに、誰かさんの行動一つで、悲しそうにしたり…あんな甘い顔したり…そういうの初めて見ました」
何を…言ってんの?
もしかして、今日の俺の態度で、小栗さんとは普通の関係じゃないってバレたって言うの?
「あー、ごめんなさい。そんな顔しないでください。普通の人なら気付かないと思いますよ。大丈夫です。あと私、二人のこと偏見ないですから。大丈夫です」
「あの……」
「私、小学校の時からの友人に、同性愛者がいるんです。長いこと彼女を見て来たので…そういうのに、免疫があるんです。
あ!誰かに喋るとかは絶対にないですからね!!安心してください!好きな人の、悪い噂は立てたくありません!
…っ、あ」
そこまで言って、アキちゃんは顔を赤くして俯いた。
「…好き…なんです。佐藤さんの事が」
こんな、俺のために一生懸命な告白は、初めてだった。
「…うん。…ありがとう。……でも、ごめん」
心が、痛い。
だけど、俺はそれを受け止められない。
俺の心は今、あの人で埋まってるから。
「うん。頑張って諦めます。…あの人には敵いそうにないですからね」
そう、力なく笑った。
いつの間にか、駅に着いていて二人で改札を通り抜ける。
そこで、俺のスマホが震えた。
画面を見ると…あ!小栗さんから、LINEだ!
「もしかして、小栗さん…ですか?」
「え、っと…」
「佐藤さん、ちゃんと自分と向き合ってくださいね!逃げないでくださいよ?じゃないと、私が可哀想ですっ」
「……」
「いつでも相談に乗りますから」
アキちゃんは、バチンとウインクした。
「…うん。ありがと」
「あ、今日見た事を黙ってる代わりに、今度何か奢っててくださいねっ!じゃ私、ホームこっちなんで。お疲れ様でした〜」
アキちゃんは、いつも会社で見る笑顔で、去って行った。
アキちゃんの言葉達が胸を圧迫する。
俺はホームへの階段を登りながら小栗さんからのLINEを開いた。
"今から、うちに来ない?"
色んな感情が複雑に絡んで、うまく答えが導き出せない…
階段の途中で、足が止まった。
モヤモヤする中で、さっきのアキちゃんの言葉が蘇る。
逃げないで…自分と向き合う…
俺は"行きます"と返事して、小栗さんの家に向かう電車を目指した。
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