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マスターと秘密 …2
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「俺さー、実は佐藤君は不倫してるって思ってたんだよね」
「えっ?」
マスターが苦笑いした。
不倫?なんで?
「いや、佐藤君…踏み込んじゃいけない辛い恋をしてるみたいだったからさ。しかも相手は年上。こりゃ不倫だなぁ。泥沼かぁ…って心配してたんだよ」
マスターが肩をすくめた。
マスター、そんな風に気にしてくれてたんだ…。
「でも…俺が思ってたのとは違う辛さを抱えてたわけね?」
辛さを抱えてって言葉が胸に突き刺さった。
俺は、小さくコクリと頷いた。
「別に、佐藤君の辛さを軽んじてるわけじゃないけど…良かったよ。安心した。だって不倫よりは、幸せへの道があるじゃない?」
幸せへの道…?
いや、確かに…不倫とくらべると、他人には迷惑かけないし、泥沼になる要素はないから、マスターが「良かった」と言うのも分からなくもない。
俺、マスターに変な心配かけてたんだな…
ハッ!!
まさか、オカも不倫とか思ってるのかな?
うう…
「で?女のライバルが出てきたっていうことね…。て言うか、好きだと宣言するなんて、怖い女だなぁ。佐藤君、牽制されちゃったのかな?」
牽制…
マスターが、俺のことをこれっぽっちも引かずに、本当に心配した様子でそう言ってくれたもんだから、思わず泣きそうになった。
「…うん。…そーか。そりゃ、辛かったよな。苦しい立場だよな」
俺が今まで意識しないようにしていた言葉を言われて、涙が溢れそうになった。
河野さんとの事は…本当に辛い…苦しい…
涙がこぼれ落ちないように、マスターから顔をそらしてカウンターの奥を睨む。
マスターは、そんな俺を気遣ってか、そっと放っておいてくれた。
しばらくして気持ちが落ち着いた頃、またマスターが俺の前に来て、今度は温かいお茶を出してくれた。
「ライバルってさ、相手がどんな強敵であれ、無視するのが正解だよ?」
「無視、ですか?
…でもその…ライバルって言うのが、その…か、彼と同じ会社の人で…仕事でお世話になるので…無視は出来ないと言うか…」
「んーー。なるほど。
…まあ、例えその女の応援をする羽目になったとしても、最終的に選ぶのは彼なんだよ?
その女がいくら頑張ろうと、佐藤君が何かしようと、彼が誰を選ぶかは彼次第なんだよ」
それは…確かに…
「まあ、佐藤君は彼に対して嘘だけ付かないようにしてれば良いんじゃないかな?」
「嘘を付かない?」
「そ。気持ちのね。…てか、告白すれば良いのに!悩みなんて一気に解決じゃない?」
「告白なんて…無理です…」
告白…
アキちゃんにも言われたなぁ。
「振られた時の事を考えてる?お客さんだから、仕事が回らなくなるのが不安とか?」
「それもありますけど…やっぱり、拒否されるのが怖い…です」
「なら、向こうに告白させちゃえ!」
「えぇ⁈俺にはそんな技量ありません…」
「簡単だよー。好き好きビーム出してりゃ良いんだから」
マスターがグラスを拭きながらクネクネした。
いやいや、それは小栗さんが俺のことを…すっ、好きだった場合に有効な訳で…
「ま、半分冗談として…とりあえず、後から後悔しないように、気持ちに嘘は付かないようにしなよ?」
その時「すみませーん」とマスターがお客さんに呼ばれた。
「負けるなよ」
マスターが親指をグッと立てて見せてから、お客さんの方に向かった。
負けるなよ…か。
河野さんに…いや、小栗さんに言い寄る女性達に俺が勝てるだろうか?
いや、待って…
「負けるな」って誰に?
…その答えは「俺に」かもしれない。
結果がどうであれ、この辛さを乗り切れるのは、俺自身しかいないんだから。
負けるな…
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