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嵐の前 …2
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それから、小栗さんが奢ってくれた日替わり定食を皆で食べながら、今後のスケジュールを伝えられた。
今日の午後で作業が終わりそうにないので、土曜日も出社することになった。
ま、それは仕方ない。
終わらなかった俺の責任だ。
食べ終わって食堂を出たところで、小栗さんが「今日は煙草は良いんですか?」と佐々木さんに声をかけた。
「午後からも大変でしょうから、ゆっくり休憩してもらっても良いですよ?」
小栗さん、気が利くなぁ…
「すみません…では、お言葉に甘えてちょっと行って来ます」
佐々木さんが嬉しそうに喫煙室の方に向かった後、小栗さんが俺の方を向いてニコリと目配せした。
ん?わざと行かせたって事?
…なんてね。
二人で、俺たちが作業しているテストルームへ向かっている途中、小栗さんがポツリと話しだした。
「最近…どう?」
「どうって?…あ、風邪はスッカリ良くなりました!」
小栗さんは微妙な顔をして微笑んだ。
あれ?
どう?って、体調の事じゃなかったのかな?
「あ、そう言えば…小栗さんは、その…風邪引きませんでしたか?…あの後…風邪移してないか、気になって…」
あの時の事を思い出して、最後の方は声が小さくなってしまった。
「ん。俺は鍛えてるから大丈夫って言ったろ?…フッ。まぁ、風邪はもらってないけど、他に良いものはもらったな」
「えっ⁈」
何かあげたかな?
俺が首を傾げると、小栗さんが俺の耳に唇を寄せて「キスマークとか」と、ささやいた。
「ぅわ!」
ビックリして耳を抑えた。
顔が熱い!
そんな俺を見て小栗さんが楽しそうに笑った。
途中、すれ違う女子社員が、興味津々に小栗さん…いや、俺たち?の事を見ていった。
恥ずかしい…たぶん今の俺、顔が真っ赤だ…
もう!小栗さん何てこと言うんだよ。
でも、ピリピリした感じはなくて、楽しそうだから…まぁいっか。
うふふ。
エレベーター乗り場に着くと、小栗さんに「階段で行こう」と提案されて、エレベーター横の階段スペースへと入った。
すれ違う人もほとんどなく、テストルームのある3階を目指して昇る。
「来週の土日、空いてる?」
前後に人の気配がなくなった時、小栗さんが歩調を落として俺を見た。
「来週ですか?…空いてますけど?」
「ん。じゃ、土曜日に水族館リベンジしようか?」
わぁ!
水族館!!
「行く!行きます!」
もう行けないかと思っていたから、嬉しい!
笑顔でそう答えると、小栗さんも嬉しそうに微笑み返してくれた。
俺の大好きな、包み込むような笑顔で。
…あぁ、もう、今ここで告白してしまいたい。
気持ちを伝えることで、この笑顔はもう見れなくなるかもしれないけど。
それでもいい。
溢れそうなこの想いを言葉に出してあげないと、心がパンクしてしまいそうだ。
河野さんより先に伝えることが叶わなくても。
水族館に行く日、告白しよう。
俺は一人で小さく頷いた。
「あぁ。次の日も空けとけよ?」
階段の踊り場で立ち止まった小栗さんは、周りに人気がないのを確認して、俺の手をスルリと握って持ち上げ、手の甲にキスを落とした。
わわ…王子かよ⁈
と心でツッコミを入れながらコクコク頷く。
小栗さんが満足そうな顔で、手を離した。
ドキドキする。
もう…
こんな事されると、やっぱり自惚れたくなるよね。
告白したら…
もしかしたら…もしかしたら…
って、思っちゃうよね。
「水族館、楽しみです!」
「あぁ。今度は風邪引くなよ?」
何て話していたら、いつの間にかテストルームのある階に着いていて、階段スペースから廊下に出た。
「あら、お疲れ様〜」
「っ!!」
びっくりした!
廊下に出た途端、河野さんが俺たちのすぐ横から声をかけて来た。
「お疲れ。もう仕事か?早いな」
「ええ。ちょっと確認したい事があって。二人は…階段?運動かしら?」
「そうだな」
「へぇ〜感心ね?」
そう言って河野さんは俺を見て、笑顔のまま目を細めた。
…何?何か用かな?
河野さんは俺を一瞬見ただけで、俺たちの間に入って来て一緒にテストルームへ歩き出した。
来週頭から、どうやら小栗さんと出張らしく、天気がどうこうとか言う話をしながら。
もしかして、階段での話を聞かれたのかと焦ったけど…
大丈夫だったのかな?
なんて考えは、その日の夜に打ち砕かれた。
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