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不本意な約束
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河野さんとの作業は順調に進んだ。
河野さんは仕事が本当によく出来る人で、あんな事がなかったら尊敬していたと思うくらい、キビキビ指示を出された。
先々の事まで細かく気が回るのには、本当に感心した。
こりゃ上の人も、河野さんが学びたいと言えばこうやってやりたい事やらせるよなぁ、と納得できる。
思ったほど遅くならずに家に帰り着いて、明日提出する書類などをまとめていたら、河野さんから電話がかかって来た。
頭が仕事モードだったので、明日の事かな?と思いながら電話に出る。
「はい。佐藤です」
『お疲れ様です。河野です。今、お時間よろしいですか?』
いつもより少し明るいトーンの河野さんの声がした。
「はい。どうぞ」
『…佐藤さんって、本当に小栗くんと仲が良いのね』
河野さんが楽しそうに笑った。
仕事モードだった頭は、一瞬それが何のことか理解できなかった。
『実は、今日の昼休み、階段での会話を聞いちゃったの』
「…階段?」
じわじわと河野さんの言った意味を理解して、俺は固まってしまった。
階段での会話を?
どこから聞いてたんだろう。
『水族館楽しみ、って話してるの聞いちゃったんですけど…水族館に行くんですか?小栗さんと?二人で?』
う、わ…
「え、いや、あの…」
『いや、責めてる訳じゃないんですよ。仲が良いんだったら、二人で出かけてもおかしくないですしね?ただ、ちょっと…お願いがあって…』
河野さんがさらに楽しそうな声で話す。
『水族館に一緒に行ってもいいですか?』
「え?」
ちょっと待って!
え?
どうしよう⁈俺、どうしたらいい⁈
「いや、あの…今回、チケットを人からもらったので行くんですけど…2枚しかなくて…」
『水族館くらい、自分でチケット買えるから大丈夫よ。それより、行っても良いかな?ね?二人的にも、もし誰かに見つかって、男同士で水族館行ったって変な噂されるより、私がいた方が良いんじゃない?』
変な噂…
もしかして、脅し?
変な噂立てるつもり?
いや、でも、確かに河野さんの言うことは一理ある訳で…
って!いやいやいや、そんな事気にしてたら、一生小栗さんに告白なんて出来ないじゃないか。
でも…小栗さんが変な風に言われるのは嫌だ。
あー、ちょっと待って!頭を整理する時間が欲しい。
「あの、でも、小栗さんに聞かないと…」
『それなら私から言うわ。佐藤くんに誘われたって事にしたら、OKくれるはずだもの。ね?』
え?俺に誘われた⁈
それは嫌だ!嫌だけど…
俺は、河野さんのグイグイ来るペースに、完全に飲まれてしまっていた。
これ以上断る理由も思い浮かばないし、後先考えずに断れる強い意志もない。
あぁ…
「わ、かりました」
『わあ!ありがとう!本当に嬉しい!今度、小栗くんと一緒に出張行った時に伝えようかな。ふふ。楽しみ〜』
河野さんは本当に嬉しそうに笑った。
なんだこれ…
河野さんは『では。明日の最終日、頑張りましょうね』と、真面目に会話を締めて電話を切った。
「ははっ…」
俺、何やってるんだろ。
もっと何か、断れる理由とかあったんじゃないか?
って、もう後悔しても遅い。
「どうしても二人で行きたいんで、遠慮してください」なんて女々しいこと、恥ずかしくて言えないし。
あー…もう。
結局、自己嫌悪に陥って、その日はよく眠れないまま土曜日の朝を迎えた。
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