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相談、再び …1
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定時直後にアキちゃんから"7時に駅に着くように頑張ります!"とLINEが入った。
俺は定時で上がって、本屋で暇を潰してから駅前に移動した。
7時を少し回ったところでアキちゃんが小走りでこっちに来るのが見えた。
俺を見つけて嬉しそうに微笑んで片手を挙げる。
「お疲れ様です!お待たせしてすみません!」
「俺の方こそ…忙しいのに、ごめん」
「いえ!こっちの方が気になって仕事になりませんもん!」
そう言ってケラケラと暗い雰囲気を笑いとばしてくれた。
それから、会社と反対側の駅出口にあるチェーンの居酒屋に入った。
店内の騒がしさが、俺たちの会話をかき消してくれる。
席に着いて適当に注文した後、とりあえずアキちゃんに謝った。
「なんか、何度もごめんね。俺、アキちゃんに情けないところばかり見せてるし…」
「良いんですよ。お役に立てて嬉しいんですから。で…こうして私の誘いに乗ってくれたって事は…小栗さん絡みですよね?また河野さんに何か言われたとか?」
はは。
このストレートさが一層のこと気持ちいい。
「アキちゃんって、すごいよね。…もう、その通り」
アキちゃんが「うわー。来たかー」と、片手をおでこに付けて、ため息を吐いた。
「で?河野さんに何を言われたんですか?」
「それがね…」
俺は、河野さんに水族館の事を聞かれて、一緒に行きたいと言われたことを話した。
「…と言うわけで、なぜか3人で水族館に行くことになりそう。
せっかくチケットくれたのに。ごめんね」
アキちゃんが、ビールジョッキをドンと置いて「っはー」と息を吐いた。
「佐藤さんが謝ることないじゃないですか⁈なんですか、その女!図々しいですね!もう意味が分からない!水族館行きたいなら、勝手に誘えって言うんですよね?なんで他人のデートに便乗するんですかね?ああそうか!自信が無いんですよ!と言うか、すでに過去に振られた事があるんじゃないですか?完全に嫉妬ですよ!それ以前に佐藤さん、どうして断らなかったんですか?んもう!」
アキちゃんが一気にまくし立てた。
「ふふ。ありがとう」
「え?」
「俺の変わりに怒ってくれて」
うん。
俺はこんな風に河野さんにキレられないんだ。
自信がないし、何より仕事大事だし…結局自分の立場が大事だから、揉め事を起こさないように、逃げてるんだ。
「あ…ごめんなさい。感情的になって…恥ずかしい…」
それまですごい剣幕だったアキちゃんが、小さくなった。
「いやいや。本当、俺、なんで断れなかったんだろうな。情けないよね」
本当に自己嫌悪でしかない。
「いえ…相手は仕事のお客さんだし、色々あるんでしょうから…
あの…それで、小栗さんの反応は?」
「うん。今ね、小栗さんと河野さん二人で出張に行ってるんだけど、この出張の間に言うんじゃないかな?小栗さんの反応は、まだ分からないよ」
「そっか…小栗さんさえハッキリしてくれたら…うーーん」
アキちゃんが真面目な顔して、ビールをちびりと口にした。
「こうなったら、河野さんと戦うべきですよ。いっそのこと『応援できません』って言っちゃいましょうよ」
「うーん。そうしたいのは山々だけど、その理由が言えないから…」
小栗さんが好きだとは、河野さんに言えない…
同性が好きだなんてカミングアウト、そうそう出来ないし。
俺の煮え切らない態度に、アキちゃんが苦い顔をした。
「もー!!理由なんて言う必要ないですよ。どうしても、ってうやむやにすればいいんですから。
それに、河野さんは佐藤さんの気持ちに気付いてるっぽいんですよね?て言うか、私はそう思います。佐藤さんが何も言えない事を分かってて、好き勝手やってるに違いないですから」
「そこまで、考える?」
「女は怖いですからね。…だから、佐藤さんもやり合っていいんですよ」
「あはは…そんなもん?」
「そんなもんです。ていうか、小栗さんが好きだってバラしても、問題ないですよ。河野さんからしてみれば、佐藤さんは好きな人の仕事のパートナーなんです。好きな人を困らせたくはないでしょうから佐藤さんの悪い噂は立てないはずですし。小栗さんのメンツを潰すような事はしないはずです。
あーー。本当は、水族館に乗り込みたいんですけど、もっとややこしくなりそうだからなぁ…。あー!河野に一言文句言いたいっ!」
いつの間にか「河野」と呼び捨てになったアキちゃんが、ブツブツと河野さんに対する文句みたいなのを呟く。
俺が口に出来ない事を口にしてもらって、それだけで少しスッキリした気がした。
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