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水族館、前日
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水族館に行く前日の金曜日の夜。
夕方からしとしとと降っていた雨は、俺の気持ちを反映するように激しさを増していた。
ぼんやりテレビを見ながら雨の音を聞いていたら、小栗さんから着信があった。
明日の事かな?
恐る恐る電話に出る。
「はい…」
『小栗だけど…今、家?』
「そう、ですけど…」
『今、アパートの下にいるんだけど、少しでいいから会えない?』
「え?」
慌ててベランダに出て、そっと下を見ると、小栗さんの物っぽい車がハザードランプをつけて、停まっているのが見えた。
「あ、はい!今降りて行きます」
そう言って電話を切った。
どうしたんだろう?
アパートの階段を駆け下りて外に出ると、やっぱり小栗さんの車があった。
俺に気付いてくれたのか、窓が開いて「乗って」と小栗さんが顔を見せてくれた。
駆け寄って、助手席に乗り込む。
「突然、悪かったな」
「いえ…」
小栗さんが前を見たまま呟いた。
「雨、すごいな」
「そうですねー。明日の天気…どうですかねぇ…」
天気予報は、午後から晴れになっていたけど。
…天気くらい晴れるといいな。
ワイパーを動かしていないので、外の景色は雨で滲んでよく見えない。
それが、さらに車内の空間を二人だけのものにした。
プライベートで会うのは、二週間、いや三週間?ぶりだ。
小栗さん、何しに来たのかな…
沈黙に耐えられずに、俺から話しかけた。
「あの…何か用事でしたか?」
「…ん。佐藤君てさ…」
小栗さんはポツリとそう言って、ハンドルに頭をつけた。
何?どうしたのかな?
しばらく小栗さんの横顔を眺めていたら、小栗さんがこちらを見ずに口を開いた。
「いや。…ちょっと
顔が見たかっただけなんだ」
…え?
……。
何かを言いかけたのは気になったけど、後の言葉をストレートに飲み込むと、一瞬で心臓が掴まれたみたいにキュンとした。
顔がかあっと熱くなったのを感じた時、小栗さんの左手が俺の後頭部に回されてグイッと引き寄せられる。
「ごめん」
そうして、押し付けるように唇を合わせてきた。
「…ん…っ」
デジャヴ?
この感覚…いつか感じた…
あ、これ、初めてのキスと同んなじキスだ。
何かを伺うような。
でも、気持ちを押し付けてくるキス。
どうして謝るんだろう?
ねえ、どうして?
俺が小栗さんに手を伸ばそうとしたら、小栗さんが先に身体を離した。
「今日はもう、帰るよ。本当に顔が見たかっただけだから」
そう言って見せてくれた顔は、とても寂しそうな笑顔だった。
まだ小栗さんと一緒にいたい。
でも、そう言うのが許されるような雰囲気じゃないのを感じて
「じゃ、また明日…」
そう言って車を降りた。
車が出発するのを、エントランスで見送ってから、部屋に戻る。
小栗さん、どうしたんだろう?
なんかちょっと余所余所しい感じだった。
何か、あったの?
モヤモヤと緊張であまり眠れないまま、土曜日の朝を迎えた。
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