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【番外編】 小栗雅治の独白 1
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俺の名前は、小栗雅治。
ある電気メーカーで、開発業務を担当している。
9月の中盤。ある製品の、外注に出しているプログラムの組み込み作業開始日。
俺はいつものように、委託先の担当者を迎えに受付フロアへと降りた。
受付の時計を見ると約束の14時を指している。
あれ?周りを見渡すが、来ると聞いていた佐々木さんの姿がない。
珍しいな。遅れているのだろうか?
遅れるという連絡は来ていないので、すぐに来るだろうと思い、入り口付近で待つことにした。
何気なくフロアを見渡す。と、受付横に立っている一人の青年が目に入った。
線は細いが、はっきりとした顔立ち。
男にこう言うのもなんだが、柔らかいラインで女性的な顔だ。
可愛らしい顔の作りに対して、正直似合ってるとは言い難い男らしい短髪が、妙に気になった。
そわそわしているけれど、気合いの入ったような目に惹きつけられる…
どこかに営業にでも来た新人だろうか?
頑張れよ、なんて心の中でエールを送ってみる。
…フッ、守りたくなるタイプだな。
それが第一印象だった。
外を眺めて佐々木さんの姿を待っていた時、受付の方から視線を感じた。
顔を向けると、先ほどの青年と目が合った。
午後の陽を浴びて光るその瞳に熱を感じて、ドクンと心臓が跳ねる。
…俺らしくない。
あんな目で見られるのは珍しい事じゃない。
自分で言うのも何だが、俺はどうやら人の目を引くような目立つ見た目らしい。
外見だけで好意や敵意を向けられる事が多々ある。
そういうのにはうんざりする。
彼も俺のことを珍しがって見ているのかも知れない。
そう思った時、その青年は目線を逸らした。
あ…つい癖で、睨んでしまったかもしれない。
まぁ。いいか。
それにしても…あの子も誰かと待ち合わせなのだろうか?
ふと、佐々木さんとのやり取りを思い出した。
そう言えば、今回は新人を一緒に連れて来ると言っていた。
先ほど、あの子はトイレの方を気にしていたし…もしかしたら、あの子は佐々木さんが連れてきた子で、佐々木さんはトイレに行っているとか?
もしかして…彼が佐藤君なんだろうか?
だとしたら、さっき俺を見ていたのは、俺がここの作業着を着ているから…顔を知らない俺を探しているからなのかもしれない。
とりあえず、彼が佐藤君か確認をしないとと思い、彼の元へ向かった。
「T制御エンジニアリングの佐藤さんですか?」
「え?ハイ!」
声をかけると、慌てたように顔を上げた。
よかった。佐藤君だった。
オドオドした様子が初々しくて、思わず笑いそうになる。
でも、知らない人間にいい顔をするのは好きではない。
緩みそうになった口元を引き締める。
「私は小栗です。今回の製品担当者です」
そう言って、名刺を差し出す。
名刺を受け取る時に差し出された手がとても綺麗だった。
手だけじゃない。
俺を見上げる少し大きめの瞳は、光を集めてキラキラして、とても綺麗だと思った。
佐々木さんはトイレに行っている、と言いながら、慌てた様子で名刺を差し出される。
その様子が可笑しくて、今度は思わず微笑んでしまった。
すると、顔を赤くしてうつむかれた。
…はぁ。いつも通りの反応…
ま、慣れてるけど。
それからすぐに佐々木さんが来て、三人で事務所に移動した。
作業が始まるまで、落ち着かない様子だった佐藤君は、どうやら初現地で緊張しているらしい。
どう見ても若そうなので、社会人になり立てなのだろうか。
ただ、作業に集中し始めてからは、別人のようだった。
ベテランの佐々木さんともやり合えるくらいに今回のプログラム内容を理解している。
何より、その集中力には驚いた。
佐々木さんにも事前に頼まれていたが、この子の成長の手助けをしてあげたいと、改めてそう思った。
そんな思いとは裏腹に、俺が手を貸す間も無く、初日にしては十分な進捗状況でその日を終えることが出来た。
それを課長に報告すると、嬉しそうに佐藤君の歓迎会を開こうと提案された。
課長がこんなに機嫌がいいのも珍しい。
どうやら、佐藤君には人を惹きつける魅力があるようだ。
俺とは違う。
内面から光るものがあるんだろう…
そう思うと、佐藤君に少し興味が湧いて来た。
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