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今や良い思い出
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河野さんとは18時半にとある駅で待ち合わせて、河野さんが適当に予約したと言う、駅の目の前の居酒屋に入った。
ちなみに、雅治さんは少し遅れて来るんだって。
大衆居酒屋なんて河野さんに似合わないと思っていたけど、とりあえずで頼んだビールのジョッキと枝豆が妙に似合って、変なところで親近感が湧いた。
「それでー?聞こうじゃないの?松井さん…松子の話を」
乾杯してすぐ、河野さんがそう言った。
「まつこ?」
「誰に聞かれるか分かんないでしょーが。念のためよ」
おお!偽名ってことか!
河野さんって、意外と面白いとこあるんだ。
ふふっ。
「えーと、何から説明していいか…」
「1から順に、でしょう?」
「……ははっ。そうですね!」
仕事なら恐縮するような言葉も、枝豆片手に言われたら逆に面白い。
「あ、長くなるなら掻い摘んでね?小栗くんとの待ち合わせは30分後なのよ?」
「え?30分後?」
「そう。松子の話で、彼に聞かれたくない事も…彼の愚痴もあるかと思って、わざとその時間を伝えたの」
「!!…ありがとうございます。あ、いえ、愚痴は…その…」
「何?本人には言わないわよ?……あぁ、まぁそうね。本音を言えば、それを聞くことで私が楽しみたいだけなのかも知れないわ」
「楽しむ?」
どういう、こと?
「私の知らない彼を、あなたはきっとたくさん知ってるから」
「はぁ…」
「最近の小栗くんは、たまに幸せオーラが漏れてるのよ。…フフッ。…週末良いことがあったのかなー?とか、これから佐藤さんと会うのかなー?とか…そういう変化、今まで見たことないから、見ててすごく面白いの」
河野さんが、思い出し笑いなのか、可愛らしく微笑んだ。
「愚痴られる小栗くんなんて…それこそ私の知らない顔だわ。羨ましいわぁ。……あ、勘違いしないでね?羨ましいって、あなたに対してじゃないのよ?そんな二人の関係が羨ましいの。恋愛で、人ってあんなに変わるんだなぁって……フフッ」
河野さんって、本当にすごいな。
好きだった人を…俺が横から取っちゃったみたいな状況なのに。
こんな俺にも、こんな話をしてくれるなんて。
「河野さんなら、すぐに良い人が見つかりそうですけど……
あ、ごめんなさい!いや、その…」
しまった!
つい口から出ちゃったけど、俺の立場で言うことじゃなかった!
その「良い人」を取ったのは俺なのに…
「あー、過去の話はナシ!思い出させないで !我ながらあれは恥ずかしいわ!執着というか、意地になってた部分が大きかったのよ。…それを気付かせてもらって、と言うか、断ち切ってもらって、あなたには感謝してる。……さ!時間がないわよ?本題、本題」
それから、急かされるようにして、松井さんの話を聞いてもらった。
雅治さんと彼女…俺を、別れさせようとしてるって話の時は、どこぞの姉御みたいな貫禄で「は?」ってガン飛ばされた…
「松子…消したい」
って。
こ、怖い。
一通り話し終わった後、河野さんはすごく難しそうな顔をして、うーんって唸っていた。
「思ってた以上にすごい子ね」
河野さんは大きなため息を吐く。
「人のこと言えないけど…やり方が酷い」
河野さんが自嘲気味に笑った。
河野さんの時を思い出してみる…
河野さんとは、すごく早い段階で直接対決だったよね。
松井さんみたいに、外堀から心理的にジワジワじゃなかった。
しかも、俺や雅治さんの気持ちを引き出してくれたし。
それを受け止めてもくれた。
「河野さんの時は…こんな風に悩んだり、小栗さんに対してモヤモヤしたりはなかったです。松子とは…全然違います…」
二人で無言でビールを口にする。
お互い、思い出すことあるよねー。
まさかこんな風に二人で飲む日が来るとは…
ははっ。
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