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観戦 …1
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揺れていた松井さんの動きが、止まる。
あぁ。雅治さんに、送ってもらいたくて、酔ったフリしてたのか…
「そうしてくれるか?」
渡辺課長さんがそう言うのにかぶせるように、河野さんがほっぺを膨らます仕草をした。
「私も女の子なのにな〜?」
「えっ?あっ、えと、じゃあ一緒に送ります!」
営業くんの焦った様子が可笑しくて笑うと、その様子を見ていたのか、二宮課長さんが話の輪に入って来た。
「松井〜、いつまでも新人気分じゃダメだぞ〜。そろそろ社会人らしくならないと」
「えっ?」
松井さんが、キョトンとする。
「誰かに送ってもらわなきゃならないくらい酔うなら、お酒セーブしなきゃ。女の子なんだから、自分を大切にしないと。…な?」
最後の「な?」って言う時の微笑みが、ヤケにイケメンスマイルだった。
そのせいか分からないけど、松井さんが素直に「はい」と頷いた。
「今日は、黒木(確か、営業くんの名前)頼むな!…じゃあ、小栗は次、行けるな?」
二宮課長さんが、有無を言わさないと言うように微笑んだ。
「…はい」
雅治さんが返事する。
一緒に飲みたかったけど、これは仕方ない。
雅治さんがチラッと俺を見て、申し訳なさそうに眉根を寄せた。
多分「ごめん」って事だよね?
俺は、小さく頷いた。
それから皆にあいさつを済ませて駅へ向かう。
俺と河野さんの後ろを、松井さんと営業くんが着いて来る。
しばらくして、松井さんが「今日は一人で帰れそうです」とか営業くんに言ってるのが聞こえた。
ふーん、って思っていたら、すぐに松井さんが河野さんの隣に並んで、歩き出した。
「あの、河野さん……小栗さんの彼女って、そんなに可愛いんですか?」
松井さんが突然そんな事を言い出した。
「え?…うん。そうね」
松井さんの行動に、一瞬、戸惑ったように見えた河野さんだったけど、すぐにいつもの冷静な顔をした。
「そうですか。…河野さんは、どうやって小栗さんを諦めたんですか?」
…は?
ちょっと!松井さん!
何聞いてんの⁈
俺も営業くんもいるのに!
いや、それ以前に、そういう質問はしちゃダメでしょ⁈
何となく、隣に居づらくなって…速度を落として少し後ろを歩いた。
後ろから二人の様子を伺う。
「あなたが何を知ってるか知らないけど…。ふふっ。そうね、しいて言えば…私は違う、って気付いたからよ?」
「違う、って?」
「彼の、恋愛対象として」
河野さんが、迷いなく答える。
すごい。
大人の余裕って言うか…松井さんの無茶振りにも真摯に答える河野さんが、すごくカッコよく見える。
「なぁに?そんなこと聞いて。…もしかしてあなた、小栗くんが好きなの?」
「……」
河野さんの問いに対して、松井さんは無言を返した。
なんだよ…
答えられないなら、変なこと河野さんに言うなよ。
「私、小栗くんと大学で知り合って、10年以上になるわ。その間、彼の色んな彼女を見てきたのよ。両手じゃ足りないくらいね。…ふふっ」
「……」
うっ。
両手じゃ足りないくらいいたんだ…
「だから、アドバイスしてあげる。…とりあえず、あなたは小栗くんのことが好きっていう前提で話すけど……いい?」
「……」
「あなたは、彼のタイプじゃない」
「……何が分かるんですか?…付き合ったことないくせに」
………。
気丈に微笑んだ河野さんの横顔を見て、無性に守りたくなった。
でも、俺には何も出来ない。
それがやけに悔しかった。
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