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雅治さんの言葉
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黙ってしまった松井さんに、雅治さんが声をかける。
「やっぱり、話は月曜日に会社で聞くよ。とりあえず、駅まで送るから」
雅治さんが、駅の方向に身体を向けた。
けれど、松井さんは動く気配はない。
「河野さんが……」
松井さんの言葉に、雅治さんが立ち止まって顔だけ松井さんに向けた。
「私の事…女の魅力がない…みたいな事を言ったんです。私…子供扱いされてるみたいで…。…私には、魅力がないんですか?私、小栗さんにも女として見てもらえていないんですか?」
言ってない!
河野さんはそんな事は言ってない!
確かに、女として見られてないとは言ったけど、それは"小栗さん"限定でしょ?
これ、分かっててわざと「そう言う解釈しました〜」って事にしたんでしょ?
あぁ!雅治さん!
信じないで!
雅治さんが少し考えてから、こう言った。
「松井さんには、十分女としての魅力はあると思うよ」
その言葉に、松井さんが嬉しそうにするのが伝わってきた。
「ありがとう、ございますっ」
「ただ…」
雅治さんは、ゆっくりと身体を松井さんに向き直して、こう答えた。
「河野のその言葉が"俺が松井さんを女として見ていない"って言う意味なら…その通りだよ?」
雅治さん、
雅治さん、
すごいや。
あなたって人は。
雅治さんの言葉に、松井さんが、固まった。
「松井さんが少なからず俺に好意を持ってくれていることは感じるし、トレーナーとしては懐いてくれて嬉しいよ。だけど、俺の周りを乱すのは止めてもらいたい。わざと河野を悪く言ったり、…俺の彼女の事を詮索するような事をしたり…俺が気付いてないと思ってる?」
「…っ」
雅治さんの口調は、決して怒鳴ったり脅したりしてるトーンじゃないけど、松井さんは怯えるようにビクッと震えた。
「これは、俺の独り言なんだけど…俺は、あいつがいれば他の女なんてこれっぽっちも興味はない。あいつを悲しませる事は絶対にしないし、あいつを悲しませる奴は絶対に許さない」
「……」
しばらく、無言の時間が過ぎた。
最初に動いたのは雅治さん。
「はぁ……ほら、今日はもう帰れ。駅まで送る」
「いえ…大丈夫、です。一人で帰れます。
…あの、お時間とらせて…変なこと言って、すみませんでした。……本当に、ごめんなさい」
声が小さくてあまり聞き取れなかったけど、多分こんな事を言った。
…いつも不思議に思ってた。
松井さんは、最後どうしてすぐに引くんだろう?って。
何で告白しないんだろうって。
多分、分かってるんだ。
雅治さんが自分を選ばないことが。
そして、怖いんだ。
拒否されることが。
だけど、気持ちに引っ込みが付かなくて、こんな事をしているんじゃないだろうか…
松井さんが深々と頭を下げて「失礼します」と言って、雅治さんの隣をすり抜けて、駅の方に歩き出した。
雅治さんはため息を一つ吐いて、その後を追うように歩き出した。
駅まで、見送るのかな?
確かに、今、この夜道を帰すのは不安だよね…
「はぁーー…」
二人の影が遠くなってから、大きく息を吐いた。
寒さなのか、別の何かなのか、自分の手が震えている事に気付いた。
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