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接近 …1
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月曜日。
「作業を始める前に打ち合わせをしましょう」と河野さんから呼び出された。
朝一で事務所に行くと、大きな紙袋を抱えた雅治さんと会った。
朝から出張先に移動する予定だったらしいけど、この打ち合わせには雅治さんも出ることにしたらしい。
もう一つ、この大きな紙袋を会社に持ってくるために。
中身はホワイトデーのお返しらしい。
出張を理由に返さないつもりでいたら、お姉さんに「せっかく買ったのに」と激怒されたそうだ。
「小栗さん、おはようございます!」
「おはよう」
挨拶をすると、いつものハリウッド俳優スマイルが返ってきた。
雅治さんって隙がない。
これじゃ、俺と付き合ってるなんて、誰も気付かないよなー…
俺の方も、もっと気を付けないと。
「運ぶの手伝いましょうか?」
佐々木さんが雅治さんの紙袋を見て声をかけた。
「いえ…これ、ホワイトデーのお返しで…」
「ええっ!それ、全部お返しですか⁈すごい量ですね…。わー…小栗さん、本当にモテるんですね」
紙袋の中身を見た佐々木さんが、本気でびっくりしたようにそう言った。
ちらっと見えた紙袋の中身は、小さな包みのお菓子達。
昨日聞いたんだけど、どうやらお姉さんに「ホワイトデーはこれを返しなさい」と、クッキーを持たされたんだって。
「意味があって、消えるもの」ってお姉さんに言われたらしいけど、どういう意味だろう?
消える…って意味じゃ、俺は消えない物をもらったもんね。
しかもお揃い。
うふふ。
特別な感じが、嬉しい。
佐々木さんの言葉に苦笑いをした雅治さんは「じゃ、これ片付けて来ますんで…」と、そそくさと去って行った。
打ち合わせでは、明日から、佐々木さんと俺のプログラムを1本にまとめて、最終的なデバッグ作業を進めることになった。
順調に行けば、今週半ばから納品作業としての工程に移って、来週頭には終わるというスケジュールを組まれた。
雅治さんは出張に行っちゃうけど、今回は河野さんがメイン担当者だし、渡辺課長さんも二宮課長さんもフォローに入るから、なんとかなるだろうって渡辺課長さんが言った。
打ち合わせの最後に…
「順調に行ったら、週末、前打ち上げどうですか?」
と、渡辺課長さんが言った。
「良いですね!行きましょう!」
と、佐々木さんがいつもの調子で答える。
本当…この人達、飲み会好きだなぁ…。
そんなことを考えながら作業に移った。
その日の昼休み…
佐々木さんと昼食を食べた後、喫煙所に行く佐々木さんと別れて作業ルームに向かう途中で、二宮課長さんとばったり会った。
「お疲れ様〜」
「あ、お疲れ様です!」
あー…
先週末に二宮課長さんに言われたことを思い出して、否応にも緊張してしまう。
「そこに休憩に来たんだけど…一緒にコーヒーでもどう?」
「えっと……あ、はい。ぜひ」
一瞬、何か理由をつけて断ろうと思った。
だけどふと、前にラーメンを奢ってもらったことを思い出した。
全然金額は違うけど、ここで返しとかなきゃもう返すタイミングがないかも。
そう思って、二宮課長さんにコーヒーを奢ることにした。
「すみません。ラーメンのお返しとか、偉そうなこと言えないんですけど…」
「いやいや、じゃお言葉に甘えて。ありがとね」
そう言ってコーヒーを受け取って笑う二宮課長さんと、休憩室のソファに腰掛ける。
「明日はプログラムをまとめる作業だよね?」
「はい。何事もなく動くと良いんですけど…」
「ははっ。まぁ、今の状態からすれば、問題ないでしょ。俺は心配してないよ?」
「ふふっ。期待に沿えるよう、頑張ります」
こういうのサラリと言えるのってカッコ良いよなぁ。
こういうのって、俺達のことを信頼してくれてるみたいで、多少なりとも嬉しくなる。
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