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路地 …1
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「あ、あのっ⁉︎二宮さんっ?」
俺が声をかけると、二宮課長さんは、すぐに俺を解放してくれた。
だけど、どこかへ向かっている足は止めない。
「ねぇ?本当にラーメン屋に行かない?ちょっとでいいから付き合ってよ」
そう、楽しそうに言いながら、俺の腕を引いた。
あぁ、これは、酔ってる?
いつも見る顔と違う気がするのは、酔ってるせいかもしれない。
「いや、食べなくても良いんだ。本当に俺の我儘なんだ。少し…佐藤くんと、話したかったんだ。うふふ」
二宮課長さんが、そう呟いた。
「どうかしたんですか?何かあったんですか?」
俺がそう聞くと、二宮課長さんは歩調を緩めた。
「俺、分かってるんだよ〜。でも、どうしても、諦めきれないんだよ〜」
どこを見るでもないその目が、足元を彷徨ったかと思ったのは一瞬だった。
再びガシッと肩を組まれる。
「えっ?二宮さんっ⁈」
「なんか、楽しくなって来ちゃった!」
端から見たら、俺たちはただの酔っ払いにしか見えないだろう。
男が二人で肩を組んで歩いていても、誰も気に止める様子はない。
たまに、こういうの見るもんね。
珍しい光景じゃない。
だけど、これをもしも河野さんや…雅治さんに見られたとしたら…
そう思うと、俺は落ち着かなかった。
「あのっ、酔ってますか?」
失礼とは思いつつ、聞いてしまう。
「うーん。酔ってるかと聞かれれば、酔ってるかも。…実はさぁ、さっき、佐藤くんと河野が仲良く話しして、目配せしたりしてるのを見て…ヤケ酒じゃないけど、ちょっとお酒を煽っちゃった」
そう言って、エヘヘと笑った。
ええっ?二宮課長さんをこうしてしまったのは、俺のせい?
いやいやいや…
とんだとばっちり。
「僕と河野さんは、本当になんでもないですから!信じてください!」
「うーん。…うん。信じてない訳じゃないんだけどね。なんでだろう。って言うか俺、完全に佐藤くんに甘えてるんだわ」
不意に、二宮課長さんが、人通りの少ない薄明かりの路地に曲がる。
「前行ったラーメン屋。こっちが近道なんだ〜」
「あ、はい。…あ、あの、逃げたりしませんから。そろそろ離してくれませんか?」
「あー、ごめん」
ダメ元でそうお願いしてみると、あっさりと肩を引き寄せていた腕を外してくれた。
よ、よかった…
身体が離れて、ひとまずホッとする。
前行ったラーメン屋か…
そう思いながら、河野さんの「二人で飲みに行かないこと」という忠告が頭をグルグル回りだした。
でも、あの時も何もなかったし…本当に変なことをされる訳がない、と思いながら二宮課長について行く。
「ねぇ…どうしたら、あんな風に河野と仲良くなれるの?」
人気の少ないその路地で、さらに歩調を緩めた彼がそう言った。
「河野が佐藤くんと仲が良いのは…河野は知ってるからかな?佐藤くんが男が好きだからって」
「えっ?」
突然、そんな事を言われて戸惑う。
「そう思わないと、やってられないんだ。佐藤くんと、河野が仲が良いのは、佐藤くんが男が好きだからだって…。だから、河野は女友達みたいに、接してるんだ、って…。佐藤くんも、他に好きな人がいるから、河野には興味ないって…」
二宮課長さんの歩調がどんどんゆっくりになる。
「ごめん。俺…本当に女々しくて…ごめん」
そしてとうとう、立ち止まった。
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