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【番外編】秋吉菜々子の観察眼 …13
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「やべーわ。なんか…俺、あきちゃんに惚れそうだわ」
山田さんが、いつもの軽い調子に戻ってニヒヒと笑う。
「えっ?なっ!なんですか、それー」
「ね?今度、二人で飲みに行かない?」
「え?」
山田さんの突然の提案にドキリとした。
二人で?それは…
「オグとりっちゃんのことで、話したい事があるんだよねー。ほら、そう言うの話す相手、他にいないし!」
あぁ!そう言うことか。
勘違いしそうになった自分、反省。
「えと、良いですよ」
「おっ?やった!じゃ、約束ね!」
そう言って楽しそうに笑う山田さんの笑顔に…
ドキドキした。
くそぅ。
きっと、佐藤さん達がラブラブ過ぎたから、感化されているんだ。
誰かと愛し合うのって良いな、なんて思わせる。
本当に素敵なカップルだったから。
私も誰かと、あんな風に愛し合いたい。
色んな困難を二人で乗り越えて、深いところで繋がることのできる。
そんな関係。
あぁ。
思い出しただけでまた泣きそうだ。
二人のあの穏やかな笑顔。
あれを手に入れるために、二人はどれだけ悩んだのだろう?
佐藤さんから相談は受けていたけど、私が受けていたのはほんの一部に過ぎないはずだ。
山田さんも、もしかしたら小栗さんから相談を受けたのかもしれない。
二人は、いっぱい悩んで…苦しんで…
そうしてあの幸せそうな笑顔を手に入れた。
どれだけの努力?
いや、努力だけじゃ恋は実らない。
いくら運命的な出会いをしたとしても…
同性同士がその先の…幸せへの道を歩める確率ってどんなものだろう?
「私は…二人が羨ましい」
思っていたことを口にしたくなって、ふと、そうつぶやいてみた。
山田さんは、言葉の続きを促すかのように何も言わない。
「人生を変えるほど愛する人に出会えて、しかも、その相手から愛してもらえて…生涯の約束をするなんて…それってどんな奇跡なのかなぁ。私もいつか、出会えるのかなぁ…」
自分でも突然変な事を言った自覚はあるけど、山田さんはさらに意外な返事をした。
「分かる」
「…え?」
ビックリした。
かなり乙女チックだった私の言葉に、恋に苦労してなさそうな人が頷くとは思わなかったから。
「オグからさ、りっちゃんの相談受け始めた時から…俺、オグが羨ましくて仕方なかった。不謹慎かも知れねーけど、悩むアイツが羨ましかった。…だってアイツ、それでもスッゲー幸せそうだったんだもん」
ハハッと笑う山田さんの声は、なんとも弱々しかった。
「それ見て、俺も彼女欲しーなーっていつも思ってた。…けどさ、今までみたいに、すぐには彼女作れなかったんだよね。いや、作れなくなった、が正解かな?…ハハッ。オグ達に感化されたんだろーなー。俺もさ、そういう相手に、出会えたらなーって。夢見るようになっちゃって」
意外だった。
山田さんから"夢見る"なんて言葉が出るとは…
私達はお互い、あの二人にすごい影響を受けてしまったんだ。
なんか、同志みたいな親近感がポッと湧いた。
「なんか…すげー二人だよな。自分達が変わるだけならまだしも、こうやって周りにまで影響及ぼすなんてな」
それからしばらく、BGMの音だけが車内に響いた。
私は一日の事を振り返っていたし、山田さんも何か考えている風だったし…
特にその無言の空間に苦痛を感じなかった。
「こんなこと改めて言うのも変だけどさ…何があっても俺らは二人のこと応援しような?」
何を考えていたのか…山田さんが突然そんな事を言い出した。
「え?何を言ってるんですか?私達、二人を応援し隊のメンバーじゃないですか」
今さら何を、と言うように返事をすると、山田さんはふふっと笑ってから、一瞬こちらを見た。
「俺、あきちゃんと出会えて良かった」
さっき、出会いの話をしたばかりなのに、山田さんが真面目にそんな事を言ったもんだから…
私の心臓が、その日一番の高鳴りを覚えたのは言うまでもない。
その胸の痛みに、私はこの先何度も悩まされることになるんだけど…
それはまた、別の話。
秋吉菜々子の観察眼 … end.
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