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約束の日 …それから
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俺はそれから、小栗さんの色んな顔が見たくて、話題をたくさん振った。
何より、たくさん喋ったら、それだけ長い時間一緒にいられると思ったから。
そんな中、小栗さんは俺にメニューをグイグイ押し付けて、珍しいお酒を色々飲ませようとする。
注文すると、それを小栗さんが「一口ちょうだい」と言って味見する。
小栗さんは、各地から取り寄せた地ビールが気になるみたいで、珍しいビールを頼んでいる。
「飲む?」なんて聞かれて、俺も一口もらう。
何か、仲良しみたいで、楽しい!
ふわふわ良い気分で酔ってきた。
「も〜、小栗さん。俺にこんなに飲ませてどうする気ですかぁ?…あっ!この焼酎も、美味しいですよ〜!」
来たばかりの焼酎をちびりと飲んで、小栗さんに差し出した。
突然、小栗さんが固まってこっちを見た。
え?変なこと言ったかな?と首を傾げると、小栗さんは俺の手からグラスを取って、一気にグイッと飲み干した。
えっ?
どうしたの?
小栗さんはそれまでの楽しそうな顔から一変、コトンとグラスを置くと真面目な顔で氷だけになったそれを見つめた。
「あ…あの…」
俺がオロオロしていると、小栗さんはゆっくりと口を開いた。
「本題、忘れてた…」
ほんだい?
って、本題?
「本当に…この間の事は、すまなかった」
え?この間って…前回の?
「あ、あの日の事、言ってるんですか?…あれについては、もう謝らないでくださいよ〜」
俺はどういう顔をして良いか分からず「へへへ」と笑って見せた。
謝られたくない。
悪い事をしたみたいで、嫌な気分になるから。
「お互い忘れようって言ったのに…結局気になって、こうやって佐藤君を誘って、様子を伺うようなことしてるし。俺……本当にごめん」
小栗さんは、頭を下げた。
だーかーら!謝られたくないのっ!
「いや、それを言うなら俺…僕だって!その…ずっと忘れられなかったですから!」
「え…」
小栗さんが顔を上げて、俺を見る。
「僕なんて、忘れるどころかあの日からずっと意識しっぱなしなんです。今回こうやって誘ってもらって、本当に嬉しかったです。
それに……
電話でも言いましたけど、嫌じゃなかったですから。あの日のことは後悔していませんから。だから、…謝らないでください」
お酒が回っているせいか、思った事が口から出てしまう。
俺なんかの為に、頭を下げさせたくない。
小栗さんは、ちっとも悪くないんだ。
それとも、こうやって謝るくらい、小栗さんはあの日の事を後悔してるんだろうか。
「後悔…してない?俺に気を使ってそう言ってるんじゃなくて?」
小栗さんが真剣な顔で俺を見る。
その顔が、いつか見た苦しそうな顔に変わった。
「あの……はい。そのままの意味です。あの日の事は、後悔していません。俺、その…なんて言うか…」
今、素直にならなきゃと思うけど、雰囲気も壊したくない。
何か言わなきゃと焦るけど、上手い言葉が出てこない。
「もし…佐藤君が、俺と同じ…
「お待たせしましたーー!!ビールになりまーーす!!」
小栗さんの言葉を遮るように、店員さんが注文の物を持ってきた。
「……」
「……」
お互い無言になってしまった。
小栗さんは、ビールを一口飲んでため息を吐いた後「フッ」と笑った。
「俺、こういうしんみりしたのは柄じゃないな」
さらにもう一口。
「どこか、静かに話せる場所に移動しない?」
そう言って、俺に流し目を寄越した。
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