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本音5
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洸の首筋に鼻を埋めると、香水の匂いが濃くなる。
爽やかで、甘くて、どこかスパイシーな匂いのそれは、洸にぴったりだと和人は常々思っていたが、今日ほどそれを強く思う日はないだろう。
酔いのせいかもしれないし、酔いのせいにしておきたいだけかもしれない。
ただただ、早く彼が欲しかった。
自分以外の人間に向けられていた笑顔も、総て自分のものにしたかった。
子供じみた独占欲だとは分かっている。きっと洸に言えば笑われるだろう。
それでも今は、幼稚でも馬鹿げていてもかまわない。
とにかく洸を独占したくてたまらなかった。
洸の左手がゆっくりと和人の髪を撫でる。
そしてその手で軽く和人の肩を押して、体を離した。
「……ちょっと待ってろ」
そう言って洸は微笑み、個室を出て行く。
和人も一先ず個室を出て、再び洗面台の鏡へと視線を向ける。
顔の赤みは多少はおさまってはいたが、今度は充血した瞳が欲に塗れた色をしていた。
こんな風に誘えば洸は乗ってくるだろう、という自信はあった。
だから和人はわざとらしく甘えるような仕草をしてみせたのだ。
洸が、先に帰ると告げればきっと咲恵は落ち込むに違いない。
それを分かっていて、いや、分かっているからこそ和人は洸を誘った。
最低だ、と思った。
彼女が傷つくのを分かった上で、自分の欲望を優先したのだから。
それでも、洸が欲しいとはっきりと自覚してしまった以上は、譲るわけにはいかない。
こうでもして無理矢理2人を引き離さないと、嫉妬で頭がおかしくなってしまいそうだった。
暫くして、洸が戻ってきた。
その手には和人の鞄もあった。
「みんなに伝えといたから。ほら、行くぞ。歩けるか?」
「…ごめん、ありがとう。お金は?」
「お前の分もまとめて適当に払っといたから。そんなこと気にしなくていい。…歩けそうか?」
洸が腕を差し出したが、和人は大丈夫、と頭を振って小さく笑う。
まだ足元は覚束なかったが、なんとか自分の足で歩きトイレを出る。
洸も、和人の歩幅に合わせるようにゆっくりと歩きながら2人で店を出た。
酔った体には外のヒヤリとした風が心地良い。
和人は気持ち良さそうに目を細めると、隣を並んで歩く洸へとちらりと視線を向けた。
洸の艶のある黒髪が風に揺れる。
少なくとも今は彼を自分が独占できたのだという事実が、ただ嬉しかった。
駅前まで辿り着くと、洸がタクシー乗り場に向かう。
そのまま一台のタクシーに乗り込み、和人へも乗るよう促した。
タクシーが洸のマンションへと向かって走り出す。
車の揺れをどこか心地よく感じながら、和人はゆっくりと目を閉じた。
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