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~番外編~ 声… ー梶ー
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ご主人様のもとに戻って2週間。
少しずつ耳が聞こえてくるようになり、ご主人様の声が少しずつ聞こえる。
でも、僕の声は戻らない。
僕は未だにメモでの会話。
それでも、ご主人様の声を聞けるだけで今はとっても満足している。
「梶ー、コーヒーくれ~。」
掃除をしていたら微かに聞こえた。
僕はご主人様の部屋に急いでコーヒーを持っていく。
「……。」
「ん。」
ご主人様は前みたいに厳しくない。
それどころか、さりげなく僕を気遣ってくれている。
コーヒーを注ぐ今でさえもご主人様は僕をじっと見ている。
それは僕の腕にあった痣が消えてるかとか、顔色が悪くないかとか…。
僕はちゃんと知っている。
この人が優しいことを。
僕が逃げる場所はここしかなかった。
ご主人様のいるところしかなかった。
だから、僕はこれからもご主人様に仕えていく。
これが僕の恩返しだから。
ある日の朝、そろそろ起きるはずのご主人様がなかなか部屋から出てこなかった。
僕はご主人様より早く起きてベッドを抜け出してコーヒーをいれるのが日課である。
9時を過ぎた。
普段なら8時半にはダイニングかリビングに降りてくるのに…。
僕は寝室に戻った。
何だろ……嫌な感じ。
ドアを開けてご主人様の姿を探す。
ご主人様の姿を見つけたのはベッドの横。
「っ!?」
ご主人様は………倒れてた。
えっ…ご主人様っ、ご主人様っ、ご主人様!!!!!
うつ伏せのご主人様をなんとか上半身だけ起こすようにすると、脂汗をかいて苦しそうに呼吸をしていた。
パニックになった僕はご主人様のケータイをとって西山さんに電話をした。
呼び出し音が1回、2回と続く。
早く早く!!!
「もしもし??
どうした、啓造。」
穏やかな西山さんの声が聞こえた。
「…っ……て……。」
声が出ない。
こんなときにも声が出ない。
叫びたいのに、早く助けてと叫びたいのに。
「…啓造??」
悔しくて、情けなくて、最後でいいから出てくれと拳を握りながら床を叩いた。
助けてっ!!!
ご主人様が苦しそうでっ!!!!
ご主人様を助けてください!!!!
「ーーーっ、ぃっ…ーー!!!」
「啓造??」
「た、すけて、く…ださ…い…っ!!!」
「…梶君??
どうかしたの!?」
「っ、しゅ…じ、さまが…た、けてっ!!!」
これが僕の精一杯だった。
西山さんは何かあったんだとわかってくれたようで、すぐに行くから待っててと言って電話を切った。
冷や汗が止まらない。
このままご主人様に何かあったら…そう思って目の前が真っ暗になった。
「大丈夫だよ梶君。
今は落ち着いてるから。」
西山さんはすぐに駆けつけてくれた。
どうやら高血圧で倒れてたしまったらしい。
最近、ご主人様は胸焼けがすると言ってあんまりご飯も食べていなかった。
「啓造が目を覚ますまで、そばにいてやって。」
僕は止まらない涙を拭きながら頷く。
「声…少し出たね。
良かった、啓造も心配してたんだ。
でも、焦らないで、ゆっくり少しずつでいいから。」
【ありがとうございます。】
「啓造のこと、よろしく。」
「…。」
「君のこと相当気に入ってるようだ。
口でも態度でもわかりづらいだろうけど、信じてあげて。」
【はい。】
信じられなかった。
僕のことを気に入ってる??
嬉しくて、次は僕が倒れそうだ。
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