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06話 お仕置きと言う名の羞恥プレイ
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「えーっと、しぃ兄? なんで俺、姫抱きされて運ばれてんの?」
「ん? 手紙に書いてたでしょ? お仕置きだよー」
「お金も確認してないのに?」
「トキちゃん、お金半分以上使えたの?」
「…………三千円程だけ」
「うわぁ、予想以上に少ないねぇ」
「他のお仕置き方法に変えてもらう、なんて事は?」
「却下しまーす」
「ですよねー」
只今俺は、肩甲骨辺りまである長い髪をハーフアップにしている金髪美形。もといしぃ兄にお姫様抱っこされ、寮までの道を運ばれている真っ最中。
身長は170以上あるし、決して軽いと言える体重ではないのにこうも簡単に運ばれると、同じ男として少しショックだ。
でもそんなショックよりも今は、羞恥心が群を抜いて俺の心を支配している。
しぃ兄の後ろへそっと視線を移せば、ぞろぞろとついて来る人、人、人。
その大体が、本当に同じ男なのかと疑ってしまうほど可愛い容姿をした人達で、しかもなんか「良かったですね、加賀美様っ!」と凄い嬉しそうにしている人や「加賀美様の幸せそうなお姿を見れて僕、僕っ……」と泣いてる人までいる。
そして何より、俺がしぃ兄に姫抱きされてからずっと、一眼レフっぽいデジタルカメラ片手にいい笑顔で写真を撮っている和風美人さん。
アンタは一体誰? そしてこの大行進は何事?
もうね、俺のライフはゼロですよ! 恥ずかしくて!
キャラじゃないけど、茹でタコ状態になっている顔を両手で覆ってギャーっ! と叫び出したい気分だ。
俺がやってもキモイだけだからしないけどな。ちくしょう!
「その眩しい笑顔が憎らしい」
「ふふっ、俺は一段と可愛く綺麗に成長したトキちゃんの恥ずかしがってる姿を見れて嬉しいよ」
「カッコ良く成長した、の間違いじゃね? 俺は可愛くも綺麗でもないと思うけど。…………このドS野郎」
四年ぶりだと言うのに特に緊張する事もなく、一緒に居た頃と変わらない会話が普通に出来ている事に俺は内心で小さく安堵の息を吐く。
さっきから心臓はドキドキと煩いが、そこはこの四年間で捻くれ度が増した性格と口調でカバーだ。
惚れた弱みと言うやつか、しぃ兄の笑顔が三割増し以上で眩しく見えるので、俺はそっと目を逸らしつつボソリと憎まれ口をこぼす。
すると上からSっ気の増した視線が痛いほど降ってくるが、俺はそれに気付かないふりをし、前方で写真を撮っている和風美人さんに声をかけた。
「あの、初めまして。こんな格好のままで申し訳ないんですが、入学生の二条(にじょう)刻也です。その、何で写真を撮ってるんですか?」
「初めまして。私はそこの、顔と能力だけは無駄にハイスペックなブラコン生徒会会計の親衛隊隊長を務めさせて頂いてます。二年の簗白 誠真(やなしろ せいま)と言います。貴方の事はよくそこのブラコンから聞いてます。写真を撮っている理由は、今君をお姫様抱っこしているブラコンに頼まれて、ですね。よろしければ仲良くしてください、二条君」
「え? ……あ、はいっ。こちらこそよろしくお願いします、簗白先輩。あと差し支えなければ、苗字の二条ではなく名前で呼んで貰えると、助かります」
「わかりました。では、刻也君とお呼びしますね」
私の事は誠真とお呼びください。
そう言って涼しげな目元を和らげ微笑む和風美人な誠真先輩は、パッと見は儚げで背景に桔梗の花とか見えそうなのに、どうしてだろう。
今、その背景に見えるのはどでかい肉食系の熊だ。
「ちょっとせー君。さっきの言い方はあんまりじゃなーい? あとなに写真の事あっさりバラしちゃってるのさー」
「事実を言ったまでですよ? 刻也君、こいつはとんでもない変態なので、色々と気を付けて下さいね?」
「えっと、はい?」
「トキちゃん? なーに可愛いお返事をしちゃってるのかな?」
あ、どうしよう。
今度はしぃ兄の後ろに、ホワイトタイガーが見えた。
笑顔なのに笑顔じゃないとか、相変わらず変に器用な感情表現方法ですね、しぃ兄。
俺は二人の常人離れした迫力に、ちょっと嫌な汗をかきそうだ。
「し、しぃ兄って、生徒会の会計やってるんだな。凄いじゃん。さすが俺のお兄ちゃ……」
あからさま過ぎるとは思うが、取り敢えず話の雰囲気を切り替えてしぃ兄を褒めてみようと俺は思った。
理由は、昔俺がこうやって何かを褒めたり、凄いと尊敬の眼差しを向ければしぃ兄はすぐ上機嫌になってくれたから、なんだけど……。
「トキちゃん、今の! 今のもう一回! 『ん』までちゃんと言って! ほら、さんはいっ!」
「…………」
しまった、褒め過ぎたと、気付いた時には既に遅かった。
嬉しそうにキラキラと輝く、期待に満ちた翡翠色の瞳が俺をじっと見つめている。
しぃ兄の隣に移動してきた誠真先輩に視線を向けても、先輩は面白そうだから止めないと無言の笑顔。
後ろにいる可愛い女の子のような人達からは、なぜか頑張ってと応援される始末。
完全に墓穴を掘った俺は、あまりの恥ずかしさから顔どころか全身が真っ赤になり、体がプルプルと震え出す。
「しぃ兄って、生徒会の会計やってるんだな。凄いじゃん」
さっき言った言葉をもう一回口にする行為だけでも恥ずかしいのに、なんだ、これは。
どうしてここにいる全員が、見事なまでに黙り込んで俺の言葉を一語一句聞き漏らすまいとしているんだ。
今すぐしぃ兄の腹に蹴りを入れて逃げ出したいが、そんなこと出来るはずもなく、俺は意を決し今まで数回しか言ったことのない言葉を口にする。
「さすが俺の……お兄…………ちゃん」
しぃ兄の腕の中で団子虫のように体を丸め、俯き、両手で頭を抱えながら消え入りそうな声で俺がそう言うと、すぐさま頭にしぃ兄の頬が宛てがわれ、そのまま物凄い勢いで頬ずりをされた。
「可愛い! ほんとにもうトキちゃんは可愛すぎっ! 俺の弟世界一ぃぃいっ!」
『はい! 本当に可愛らしいです! 加賀美様の弟様は世界一ぃぃいっ!』
「ぶふっ!」
「なっ、大声で何叫んでんだよ! バカ! やめろっ!! ストップ!!」
いきなり叫び出したしぃ兄の口を慌てて両手で塞ぐが、そんな俺の行動にしぃ兄はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべるだけ。
その笑顔がまた無性に腹立たしいものだから、蹴りは無理でもチョップぐらいなら八割方本気で出来そうだ。
というか、こんな恥ずかしい状況なのにさっきの言葉がけっこう嬉しかったとか思ってる俺、マジ救えない。
あと後ろの人達。俺よりも断然アンタ達の方が可愛いんだから、そんな熟練の訓練を受けた軍人みたいに声をきっちり揃えて俺が世界一とか叫ばない。
そして誠真先輩、なに腹抱えて苦しそうに爆笑してんですか。爆笑してても品良く見えるとかどんな技使ってんだ、おい。
「んー、ん!」
「しぃ兄、もし次同じ事したら、俺は今日一日しぃ兄ともう会話しないからな?」
「んんっ!?」
俺の言葉に、大袈裟過ぎるほどの反応を見せるしぃ兄。
ヤダヤダと首を横に振るその姿がちょっと可愛く見えて、俺は苦笑しつつゆっくりと手を離す。
「ぷはっ。トキちゃん、ヒドイ!」
「何が? 変な事をいきなり叫び出すしぃ兄が悪い。それより、この学園についてそろそろ教えほしいんだけど」
小学生の時に聞いたのは、高等部だけ山奥にあるから全寮制になっている、私立の男子校って事だけ。
親衛隊って何? 加賀美様って、なんで様付で呼ばれてんの?
しぃ兄を見上げながら首を傾げると、なぜか「ダメ! それあざとい!」と顔を逸らされた。
何が、あざといと言うんだ。
しぃ兄の方がよっぽどあざといと、俺は思うんだけど。
「何か一人で騒いでるブラコン野郎は放っておいて、私から簡単に説明させていただきますね?」
「あ、爆笑から復活したんですね。よろしくお願いします」
「ふふっ、先程は大変面白いものを見せて頂き、ありがとうございました」
そう言って美しい笑みを浮かべる誠真先輩に、この人は絶対敵に回しちゃいけない人だと、俺は内心で頬を引き攣らせる。
余計な事は言わず黙って誠真先輩の説明を聞き始めた俺は、数分後。この学園の特殊さにポカンとまぬけ面を浮かべ、しぃ兄の人気の高さに頭が若干痛くなった。
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