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epilogue:真夜中の来客 Ⅰ
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「ねえヴィル,起きて」
まだ日は昇っていない。天鵞絨の重いカーテンで月光は遮られ,落ち着いているが豪奢な調度品で飾られた部屋の中を手に持った蝋燭の火だけを頼り進む。監督生のヴィンセントは一人部屋だ。其れがミシェルにとっては都合がよかった。
ベッドサイドに燭台を置いて,白いシルクのシーツの上に体重をかける。ぼんやりとした光で照らされた愛おしい彼の金髪が輝く。其れを見て満足そうに「僕のヴィルは眠る姿も美しいんだね」と囁き,相手にシーツの上から跨るようにしてのしかかる。
「ん...」
金色の睫毛が軽く揺らぎ,瞼を上げれば翠の瞳は眠い色を浮かべている。其れがますます色気を増させていることに本人は気づいていないだろう。
眠い,その一言を紡ぐことも面倒なまま声の方を見る。寝ぼけ眼が自分の上の少年の姿を捉えれば薄い唇から吐息と共に「お前か....」という小さな声を漏らした。
「そうだよ,僕だよ,他に誰だと思ったの?」
声は明るいがヴィンセントは自分以外の誰かを待っていたのではないかと不安を抱き,どこか探るような様子で聞く。しかし,ヴィンセントが答える前に自分の不安を拭い去るかのように身を屈ませて彼を抱きしめるようにして腕に力を込め,「ヴィルも,して?」と目一杯,愛してもらえるように強請ってみる。
「ん....嗚呼...」
突然相手に抱きしめられると驚きながらもまだ眠気の中に取り残されているようで。寝ぼけたまま相手をシーツの中へ招き入れる。眠い,小さく呟いた。強請られるがままに腕に軽く力を込めてやり,自分の方に相手を抱き寄せ「柔らかいな」とつぶやく。相手のふわりとした柔らかい髪が心地よかった。顔を軽く埋めまた寝息を立て始める。
「まだ寝ているの?」
抱きしめられると嬉しそうに微笑んで擽ったそうに身をよじる。
"まだ"というが時計は3:00を指している。僕が来たのに,とミシェルは思う。
抱きしめられるだけじゃ足りない,なんて我儘を言ったら嫌われるだろうかとも考えた。
「ミシェルはすぐ甘えたがるな...」
薄く目を開ければ相手の考えがなんとなくわかるくらいの仲だ,何を求めているかなんてすぐわかる。くすりと笑みを浮かべ,再び目を閉じ,ミシェルの瞼に軽く唇だけで甘噛みをする。
瞼に押し当てられる唇の柔らかさに酔う。自分が彼を独占しているんだという喜びと,相手の肌が嬉しい。長い睫毛を揺らして触れられた場所が熱を帯びていく。「くすぐったい」と呟いてから照れたような笑みが漏れる。
ふと真面目な表情を作ればまた襲い来る不安を拭おうとして身を起こす。不思議に思って目を開いたヴィンセントの翠が蝋燭の炎でぼんやりと輝く。綺麗だな,と改めて感心して惚れ惚れしてしまう。ヴィンセントが美しいが故に心配になる。自分より好きな人がいるのではないか,自分はなんでもないただの関係だけの相手なのかもしれない,と。
それで不安になって,「ヴィンセントにだけだよ」と自分の意思を伝えてみる。
「愛らしい」
ミシェルのホットチョコレートの色の瞳に不安が浮かんでいると気づく。だが気づかぬふりをしてその愛らしい顔を細い指で撫でる。吐息と共にミシェルの薄いさくらんぼ色の唇に指を移して其処を撫でる。
「ヴィンセント....ん...」
眉を下げて唇への感触にぞくりと感じる。ヴィルの言葉は僕にとって媚薬なんだ,といつも思う。それくらい,ヴィンセントからの言葉は嬉しいし感じる。瞳を潤ませて唇をなぞる指にちろりと紅い舌を這わせてその指を舐めてみる。
「ヴィルでいい」
ミシェルのまるで犬のような行動に驚くも愛らしい,とまた呟き,その髪をくしゃくしゃと撫でる。抱きしめたい,と欲求に駆られる。腰に手を回しながらミシェルの唇を自分の唇に誘導する。
「ヴィ...ル....」
やっぱり僕は特別だね,と心の中でほくそ笑む。まさか他にも愛称で呼ばせている相手がいるなんてこと知る由もない。導かれるままに自分の唇とヴィンセントの唇を重ね合わせる。
片手でミシェルの後頭部を支えるようにし,唇の隙間から舌を割り込ませ,深く求めていく。部屋の中にぴちゃり,という水音と時折の吐息がこだます。
ミシェルはその気持ちよさに従順に身を任せ時折自分からも舌を絡ませる。幸せな時間が続けばいいのに,なんていうことを頭のどこかで思う。自分よりも身体の大きい相手の上で小さく身悶え,酸素を求めるように唇を離そうとするのをヴィンセントは良しとしない。
口付けを堪能した後に唇を離すと銀の糸が引いてぷつりと切れる。
抱き寄せられながらミシェルは,こんな幸せなら夜が明けなければいいのに,なんてことを思う。柔らかい金髪の髪を撫でながらヴィンセントの引き締まった身体に密着する。
寝ぼけたヴィンセントは「ルル....」と小さな声だがはっきりと,別人の名前を呟く。
顔が青ざめた。ミシェルは衝撃と同時に不安が襲ってきて血の気が引くのを感じた。
どうしてルル?今の一連の行為は僕じゃなくてルルにしていたの?僕じゃなくてルルだと思ってたの?
じわりと視界が涙でぼやけてくるがそれを乱暴に拭い去り,はっとして決まり悪そうに目を逸らしたヴィンセントの胸にしがみつく。
「悪い」
自分の腕の中のミシェルに謝る。無意識のうちに別の少年の名前を呼んだことで相手に屈辱を与えたと反省した。シーツの海に身を投げ,その心地良い肌触りの中でミシェルを罪滅ぼしのためか,抱き寄せる。
「だったら...ヴィル,僕を抱いて..?僕じゃ,だめ?」
頭を撫でられるがその行為には何の感情も篭っていないような気がしてますます不安が募る。ヴィンセントの瞳に自分は映っていないような気がしてならない。僕だけを見て、と腕にしがみつきながら呟く。ヴィンセントの薔薇の香水の香りだけがもどかしさを煽っていく。
「明日早いんだよ...」
もう今夜はミシェルの相手をするつもりはなく,明日の朝礼のために眠っておきたいんだということを呟く。しかし上目遣いで自分を見上げるミシェルが目に入る。眠気よりもその愛らしさの方へ意識が向いていく。体勢を変えて腰に手を回し,体を密着させる。ミシェルのまだ幼い体は抱きしめ易い。寝ぼけた頭でそんなことを思った。
ミシェルはまだ足りないようでじっとヴィンセントを見つめている。ヴィンセントはその後頭部を支えるようにして寄せ,唇を重ね合わせる。舌を絡ませる,色のある口付けを交わし,何度も角度を変える。
何のしてもらえないのかと一瞬落胆したがヴィンセントからの口付けが降ってくれば喜びに変わり,一生懸命,ヴィンセントが自分の方を見てくれるように奉仕する。
「ん...ふっ..ぅ...っ」
「ッ....」
お互いの吐息と唾液の混ざる音だけが妙に大きい。ミシェルはそれが妙に恥ずかしかった。
ヴィンセントは最後までするつもりはなく,一通りぬるりとした舌の感触を楽しんだ後に唇を離す。そのままの流れでふかふかの枕に頭を戻した。
「...はぁっ...ヴィル....?」
ヴィンセントとの口付けは勿論好きだ。でも此処までされて後はお預けなんて,気に食わない。
ムッとした表情を見せると「勝手にさせてもらうんだからね」と独り言を呟く。どうしようかと一瞬迷うのちに自分に背中を向けて眠るヴィンセントの耳朶を食む。それだけじゃ飽き足りずに音を立てて吸ったり舐めたりしてみる。
「んぁ..っおい...!」
耳はやめろ,と弱点である部分を攻められてびくりと反応してしまう。微睡みの中に落ちるくらいの心地の良いところだったのに,と思いながら肩越しにミシェルを睨みつける。
誰にでも優しい笑顔のヴィンセントが見せる怒った顔と驚いて出た妙に艶っぽい声に興奮して調子に乗る。そんな声出されたらたまったもんじゃない。
ヴィンセントは相手の動きを封じようとまた寝返りを打ち腕の中にすっぽりと収める。これならもう悪戯出来まいとして再び目を閉じた。
腕の中に収められたまま少しだけ顔を動かし,ボタンが外れて開いたシャツの胸元に顔を寄せる。きめの細かい肌と薔薇の香りが強くなる。浮いた鎖骨をぺろり,舌を出して舐め,反応する隙も与えずにそのまま唇だけで食む。
「ミシェル...っ!」
咎めるような声も今は眠たそうになってしまう。不意打ちはいけない。長い金色のまつ毛に縁取られた瞳を不機嫌そうに開け,ミシェルを一瞥したのちにすぐまた閉じてしまう。ミシェルが動けないように足を絡める。
「僕じゃ大きくならないの?」
睨まれた,怒られた,そう感じれば少しだけ寂しさの滲む声で問いかける。返事を待たないうちに寝間着のズボンの上からヴィンセントの自身を摩る。自分たちがこう云う関係になってからお互いの身体の中で知らない部分はないくらいにすることはしてきたけれどいつだってヴィンセントにアプローチするときは考え過ぎてしまう。そんなことを頭の隅で考えた。
「....今はそういう気分じゃないんだ」
触られて反応しないわけがなく,またびくりと肩を揺らすも,朝礼,と自分を律してからそんなことしている場合ではない,眠らなければと思って背を向ける。
ミシェルは不満顔でむくりとベッドから起き上がる。
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