アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
思わぬ再会は
-
一番に目に飛び込んできたのは、酷く耽美な横顔だった。咲耶は目覚めたばかりで微睡む脳で、その人物が一体誰なのかのんびりと考えた。窓から差し込む柔らかい月明かりに、金色の髪が幻想的に照らし出されている。そんな美しい髪色を持つ人間を、咲耶は一人しか知らなかった。常に自信に満ち溢れた翡翠の瞳は鳴りを潜め、年相応の幼い寝顔をした迅がそこにいた。幾分か軽くなった身体を布団から出し、ベットに腰掛け辺りを見回す。部屋には値の張りそうな豪華な家具がいくつも置かれていた。旧倉庫で迅が助けに来てくれたとこまでは覚えているが、そこからの記憶が欠落している。この状況から考えると、あのまま意識を失ってしまった自分を、迅が自身の部屋まで運んでくれたのだろう。咲耶は一度ベッドルームから出ると、冷蔵庫を勝手に漁りミネラルウォーターを一気に飲み干した。身体の調子はもうほとんど戻っているようだ。皮肉にもあの事件があったおかげてゆっくり身体を休めることができた。
「まあ・・・、これで明日も仕事が出来る。」
自嘲ぎみに乾いた笑いを口元に浮かべながら咲耶は言った。こんな汚れた身など、有紀にはふさわしくないのかもしれない。あの美しさと高潔さに影を落とす存在でしかないのかもしれない。だがせめて、有紀の光の及ばないところで、力に慣れたらと思うのだ。旧倉庫での出来事はおぞましく想い出したくもないが、迅がずっと側にいてくれたからだろうか、
不思議ともう恐怖感は抜けていた。不遜で人を見下した嫌な奴だと決めつけていたが、存外面倒見の良いところあるらしい。咲耶はベッドルームに再び足を踏み入れると、熟睡する迅の肩を揺すった。
「ん・・・。」
迅は気だるげに薄く目を開ける。
「世話になった。この借りは必ず返す。」
咲耶はそれだけ言いい立ち去ろうとするが、不意に腕を後ろに引かれ、ベッドにそのままダイブした。腕がお腹にがっしりと回され、咲耶の首元に迅の息がかかる。
「・・・なら今返せよ。」
「え・・・?」
そう呟くなり、迅に首筋をきつく吸われた。咲耶は慌てて身を捩り、なんとか迅の腕の中から抜け出し、ベッドから飛び降りた。
「これで借りはなしな。」
迅は満足そうに言うと、にやりと不敵な笑みを浮かべた。咲耶は迅に吸われた部分を手で押さえながら、恨めしそうに迅を睨んだ。つい先程見直したところだというのに、やはりこの男は油断ならない。良い人の皮を被ったとんだ狼だ。咲耶は無言で迅の部屋を足早に出ると、苛立ちをぶつけるように部屋の扉を乱雑に閉めた。
咲耶が特待科の寮に来たのはこれで二回目だ。前回来たときには香澄に有紀の部屋までの道順を教えられていたため、迷わずに帰ることができたが、今回はまず自分が寮のどの辺りにいるのかすら検討がつかなかった。同じような廊下が続き、咲耶はなかなかエレベーターホールに辿りつくことができずにいた。迅が運営委員長であることを考えると、特待科の寮の最上階は各委員長のみしか使用を許可されていないため、ここが寮の最上階であるのは間違いない。何度目かの溜息を吐くと、咲耶は自力で帰ることを諦め、道案内役を得るため丁度目の前にある部屋の主を訪ねることにした。深呼吸をしてから恐る恐るインターフォンを押した。
「はい。」
返事と共に扉が開かれた。咲耶は出てきた人物を見て、この部屋の扉を叩いてしまったことを激しく後悔すると同時に、自分のくじ運の無さを猛烈に呪った。
「・・・月瀬?」
部屋の主である日野沢有紀は、突然の現れた咲耶を見て秀麗なヘーゼルの瞳を丸くした。それもそうだ。咲耶は本来ここに居るべき人間ではない。身の程をわきまえず、図らずとも有紀を訪ねてしまった自身に嫌気がした。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
28 / 77