アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4
-
「全くもって笑わせてくれる。知った所で人の子であったお前に何ができる?人を嫌う私にお前は」
「ぐっ…何もできません、僕には何も…ッ」
胸を抉るように爪を立てる。突き刺さって食い込んで傷を作る。傷みに負けじと歯を食い縛り耐え、言葉を紡ぐ。
「お前が神の使いでなければすぐに殺せたものを…憎い事にあやつの加護がそうさせない。甘い匂いを撒き散らし、私すら魅了させるお前がとても忌まわしい」
何を言っているのか分からなかった。神様に与えられたこの器は、彼にとっての毒なのかもしれない。
流れる僕の血を掬い上げ、舐めとる。人間と変わらない赤い鮮血は、今でも僕の鼓動を脈打ち、全身に回り生きているのだと実感させられる。
見たことない彼の表情に目を取られて、脈は更に速く加速していく。
「白蛇様…僕は、何もありません。今流れる血は神様に与えられた代物。僕は、もう生きていません…愛されなくなって捨ててしまった…必要とされずに」
誰もが僕にこう言った「死ねばいい」死んでしまえば人生はそこで終わりだった。希望なんて持った所で何一つ良いことはない。
希望を持ちながらにして散りゆく命もあっただろう。僕は、それに自身で終わりを告げた罪人なのだ。神様は何も言わなかったが、これがどれだけ重い罪なのかも分かっている。
白蛇様を僕は、知らない。なぜ消えようとしているのかも全ては分からない。それでも、スズやレンのように彼を想いとても辛そうにしたあの表情に、この人は消えてしまってはいけない人だと思った。
僕は、彼に何もしてあげることは出来ない。自分すら救う事の出来なかった僕には、その権利すらない。重い罪を背負いこの先それと歩まなくてはいけない。
それでも、側に居て欲しいと願う我が儘が…何も出来ないからと言う理由で、その全てを放り出したりはしたくなかった。
「白蛇様…お願いです。貴方の側に居させて欲しい…何もない僕に何かを与えて欲しい。消えないで欲しい…」
持てる精一杯を彼にぶつける。我が儘な問い掛けを言葉にするのはとても難しくて、歯痒い。
もう此処に来て何度流れるだろか、血とともに流れる涙は傷口に差し掛かってピリピリと痛む。
「…真っ白だな、本当に。綺麗な魂は穢れを知らず、私を翻弄させる。…私の命は残り少ないだろう、お前はそれを悲しんでくれるのだな」
止めどなく流れる涙を優しい手付きで撫でる。予想もしなかった言葉に驚き相手の顔を見た。無表情に近いその表情と相変わらず綺麗に輝く赤い瞳が揺れたように感じた。
意図は読めない。頭の中を支配するのはただ一つ。
(側に居させて貰えるのだろうか)
「白蛇様…僕は」
「私は欲にまみれた人の子がとてつもなく怖いのだ。それと同様にそれでも尚憎めきれない己がいる。お前が神の使いならばこの心を癒すのも簡単だろう。そうならないのは不器用で歪んでしまった心か」
言葉を遮るようにして放たれる言葉。この人はきっととても優しい方だ。憎め切れずそれでも憎むしかなく、許す事すら出来ない。全てが淡さって渦巻いた感情から逃れられずに、開放されたい一心で消える事を望んだのだろう。
立場は違っても似ているのだ。そう、僕にとても似ている。
「私の生きる糧を知っているか?」
そう言って、白蛇様は僕の唇を指で触れ、その指を頬に移した。徐々に近付く端正な顔…訳も分からず、僕は目を閉じた。その瞬間、柔い感触と共にチュッと触れるだけの口付けされた。
「は、白蛇!?……ん、」
余りの出来事に名前を呼び止めようとする。丁度良いと言わんばかりに開いた唇に入り込むようにして舌を差し入れ歯列をなぞる。
交わる舌に今まで体験したことのない痺れるような感覚。合わさるお互いの舌先が混じりあい、どちらとも言えない唾液が流れ落ちる。それでも止まない深い口付けに、呼吸も儘ならないままそれを受け入れた。
暫くして離された唇と名残惜しそうに舌先を繋ぐ銀糸…そして荒い自分の呼吸。初めての経験に瞳を潤せ顔を真っ赤にして問い掛けた。
「っ…あ、なんで」
「お前が生きろと言ったんだろう?…とても美味しかったよ」
微笑む白蛇様は唇を一舐めして妖艶にそう答えた。僕は、その光景に目を奪われて、もう何も考える事も出来ずに呆然とするしかなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 17