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第1話
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ものすごい全力で走る。でも俺は足が遅い。早く、早くしないと売り切れる。あ、お店が見えてきた。少しスピードを落として、息を整えながら店の引き戸をカラリと開けた。
「いらっしゃいませ。あら和君。」
「あの、まだ残ってますか?」
俺はゼハゼハと荒い息をなんとか押し留め、ヨロヨロとショーケースへ近づいた。
ここは、今住んでいるアパートの近所のお店で、入居したその日に見つけて以来出来る限り通っている、小さな和菓子店。
「ちょうどギリギリ、1個だけ残ってるよ。」
奥さんが微笑んだ。
「やった!」
もう、飛び上がりたいくらい嬉しい。やっと食べれる。
この店は月替りで限定和菓子を用意してある。もちろん限定なだけに人気があって売り切れる事が多い。俺は6月の限定和菓子をショーケース越しに見た。
おお!きらきらと光って見えるよ。
「そんなに喜んで貰えると嬉しいわぁ。」
ショーケースの戸をスライドさせて、奥さんが葛饅頭を取り出した。
笹舟に乗った、ツヤツヤのつるつるの表面。中の餡がうっすらと透けている。そのぷるりとしたまん丸の左端に、傘の形にくり抜かれた薄い羊羹が乗っている。
赤い、小さな傘。
「かわいい!」
「ふふ、和君は本当に和菓子好きだね。今日はこれだけでいいかしら?」
「はい。また来ますから。」
有難うございましたと、奥さんに手を振られ店の外へ出た。ニヤつく顔で引き戸を閉めたら、
「和、」
鋭い目。
「っ!」
はうっ!あわわわ、な、なんでここに?
びっくりして、本当に肩が上がった。よかった、和菓子の入った紙袋は落としてない。
「に、西さん…、」
ギロリ、
「蒼でいい。」
こ、怖い。逆らわずに名前を呼ぼう。
「…あ、蒼さん。ど、ど、どうしたんですか。」
ああ…、も、もしかして尾けられてた?怪我したから今すぐお金寄越せとか?いや、もう、限定和菓子は買ったからいさぎよく財布の中身を出そう。…今月は、もやし炒めで凌ぐんだ!
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