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第2話
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「これ、あんたのだろ、」
「あ、」
落としてたのか…。
差し出されたのはバスの定期券。
かああぁぁと、顔が熱くなった。
だって、親切にも定期券を拾って持って来てくれたのに、勝手にお金を巻き上げられるとか思ってて…失礼すぎる。
「有難うございます。」
お礼を言って受け取る。
「…家どこ、」
え?家?なんで…あ、でもお茶くらい出すべきだよ。
「この近所のアパートです。あの、お茶でも飲んで行かれませんか。」
黒キャップの下の鋭い目が、一瞬見開いた。直ぐにこくりと、黒キャップが揺れる。
「あ、こっちです。」
俺は店から直ぐの、狭い通り道を指差す。歩き出そうとしたら、肩を掴まれた。
「っ!」
ビクッとした…な、なに!
掴まれた肩が歩道側に押しやられ、彼が車道側に並んだ。
よ、よく分かんないけど気遣われてる?
横に並んで15センチくらい高い彼を見る。なんだか怖い雰囲気だけど、グレーのTシャツとカーキ色のスキニーパンツは彼に似合ってる。
5分ほど歩く。お互いに無言のまま、直ぐにアパートへ着いた。
「ここです。二階なので、階段に気をつけて下さい。」
このアパートはすごく古くて、階段が急で狭い。部屋は六畳一間の和室で、おまけに壁にヒビが入ってるけど、家賃はすごい安い。一応、狭いながらも風呂とトイレまで付いてる。一人暮らしだし、俺の経済力では十分すぎる良い物件。
先に階段を登って、部屋の鍵を開ける。きしむ扉を開け彼を見た。う、見下ろされると威圧感がすごい…。
こ、怖い。
「…あ、あがってください。」
「…おじゃまします、」
狭い玄関は一人づつしか入れない。俺が部屋に上がるのを待って、彼は高い身長を屈める様にして入った。
物珍しく部屋を眺める彼に、ちゃぶ台の前に座る様にすすめる。俺は玄関の直ぐ横にある台所で、お茶の用意を始めた。
あ、
どうしよう…、おもてなししようにも、お茶菓子はこの手元の限定和菓子1個しかない。…半分個しよう。
紙袋から取り出し、透明のケースを開ける。まな板の上に笹舟ごと置いて半分に割った。
赤い傘の羊羹、1個しかない飾り…。
はう、た、食べたい。
い、いや、ここは相手に譲るべきだ。だって、彼はお客様。
うう…悲しい。明日…明日頑張ってまたお店へ行こう。
お盆の上に、緑茶の入った湯呑みを二つ。半分個の葛饅頭を二皿。小さなちゃぶ台へと運ぶ。胡座をかいて座る彼の前に、湯呑みを一つ、そして赤い傘の乗った葛饅頭の皿を置いた。
「ど、どうぞ…。」
さよなら赤い傘…、女々しい俺。
自分の前にも一揃い置いて、向かい合って座った。
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