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第17話
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何本かバスを見送って、どうしても乗れなくて、ゆっくり歩いてる。
悲しい気持ち、落ち込む気持ち、根性がない自分が嫌な気持ち。どうして、拒否出来ないのか。
足を踏んで撃退するとか、肘で鳩尾に打撃を与えるとか…。触られてる間も頭では色々考えてるけど、結局耐えるだけで精一杯で何にも出来ない。
それに、アパートの件もあって恐怖心が強くなってる。
「はぁ…。」
明日はどうしよう。あ、朝早く出て、人がほとんど居ないバスに乗ろう。帰りは…人が少なくなるまで見送って乗ろう。
「うん、大丈夫。」
少し希望が見えてきて、何とかなりそうで安心する。
和菓子店はもう閉店してる時間。店舗の裏にある家の方へ回って玄関に入る。
「ただいま戻りました。」
「遅かったね、残業?」
瑆司さんが出迎えてくれて微笑んでくれる。
「あ、…はい。」
本当の事は言えなくて頷く。
「…和君。練り切り食べる?売れ残りで悪いんだけど。」
「え!いいんですか?」
練り切り!すっごい好き!
「うん。好きなの選んでいいよ。」
「有難うございます。」
店舗に連れて行かれ、ショーケースの中から好きなのを取ってと言われドキドキする。残っているのは3個、全部違う種類。
「わぁ!どれも綺麗で、美味しそうですね。…うぅん、選べない。」
「全部食べれるなら、3つとも取りなよ。」
「え!そんな、夢みたいな話…。」
練り切りってちょっと高いし、俺の中では、高嶺の花だから…。
「ははっ。夢ではありません。全部どうぞ。」
促されて、恐る恐る手に取る。桃色の丸くて可愛い練り切り。四角い抹茶色のキリッとした練り切り。淡い青…紫陽花の様な繊細な練り切り。
全て綺麗で心が躍る。
「うふふ。嬉しいです。」
帰り道の重かった足取りと、気持ちが少しづつ消えていく。
「喜んで貰えて良かった。和君、凄く疲れてるか落ち込んでいる様に見えたから。」
「えっ!あ、あの、そんな風でしたか。」
「うん。まあ、色々あったから…そんなに直ぐには立ち直れないとは思うけど…。俺で良ければ話を聞くから吐き出しなよ。ちょっとは、すっきりするかもしれないし。あ、勿論無理強いはしないから。」
話したくなったらいつでも聞くからねと、真剣に言ってくれる。
「…有難うございます。」
瑆司さんは優しい人だ。涙が出そうなのを頑張って堪えた。
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