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第20話
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「自動車の免許持ってる?」
俺の話をじっと聞いてた瑆司さんが、おもむろに言った。
「…持ってます。」
「なら、うちの車を通勤に使ったらいいんじゃない。」
「いえ、さすがにそれは図々しいです。もう既に、たくさん助けてもらっているので。」
「うーん。気にしないでいいのに。ならさ、うちで働く?」
「えっ!和菓子作れません。」
びっくりして、思わず体を起こして言った。和菓子は大好きだよ。だけど、食べる専門だから。
「違うよ。店内の販売員の方。今、お袋がやってるけど、事務とか配達とかもあるし、そろそろ手一杯だから誰か雇おうかって言ってたから。」
急に起き上がってしまったからか、体が傾く。頭が重い。
「わっ、和君。ちょっと横になろう。」
支えられて、また布団に戻った。
「急な話だからびっくりしただろうけど、熱が下がったら考えてみて。明日は仕事を休んでゆっくり寝て、早く治そう。仕事に行ける様になったら送り迎えするから、遠慮なく言って。」
一先ず頷く。
「……ちょっと寝ます。」
頭が付いていけない。言葉に甘えて、熱が下がったら考えよう。
「うん。お休み。」
「お休みなさい。」
目を閉じる。薬の所為か、疲れているからか、眠りは直ぐにやってきた。浅く、微睡む。
ふわふわと熱に浮かされながら、蒼さんがピアノを弾く姿を見詰める。素敵で優雅な姿にドキドキする。キラキラ躍る音、ゴムボールの様に弾んでオレの心に輝きながら刺さった。ああ、すごく好きだと感じる。もう、この心は蒼さんの音で一杯だ。
こんなに大好きなのに、会えないね。
零れる涙。
はっとして起きた。緩慢に頬に触れる…涙は既に枕を濡らしていた。
「そっか、…俺は蒼さんが好きなんだ。」
いつの間に好きになってたんだろう。俺は、いつの間にこんなにも…。
「もう、会えないのかな。」
会いたいよ蒼さん。
会わずにいたら、心の中の音が消えてしまうよ。
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