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第32話
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蒼さんに案内されて入った部屋は、真ん中にドォーンてピアノが置いてあった。
グランドピアノっていうんだって、蒼さんに教えてもらった。
「こんなピアノが家にあるって凄いね!」
「あー、母親がピアノ教室やってたから。この部屋は防音室になってるし、ピアノ教室として使ってたんだ。」
「ピアノの先生!あ、だから蒼さんは小さな頃からピアノ弾いてたんだね。」
「うん、駅前の楽器店に通ってた。この家を建てる前までは、母親があそこの先生だったから。」
「へえー、もう通わないの?」
「俺は才能無いし、ただ好きで弾いてただけだから、もういいかと思って中学3年になった時に止めた。」
「えっ!勿体無いよ、あんなに素敵なのに。」
「ははっ、和がそう言ってくれたから最近は家で練習してる。この前よりはまともな音が出せると思うから、聴いてくれるか?」
「うん。むしろ聴かせて下さい。」
「光栄です。」
ピアノの椅子の前。蒼さんが右手を肩に軽く当て、左手を背中側の腰に当てて頭を下げる。格好良くって、嬉しくって、どきどきして恥ずかしい。
「リクエストはある?」
「うん。前よりも、少しは曲名が言える様になったよ。それで、…月光をリクエストしてもいい?」
「ベートーヴェンだな。」
「うん。綺麗な曲なんだけど、切ない感じがして…、」
蒼さんに会えない間よく聴いてた、もう会えないかもって思いながら…。だからこそ、弾いてほしい、聴かせてほしい。ちゃんと、蒼さんはここに居るって感じたい。
椅子に座った蒼さんの長い指が鍵盤に乗る。最初は同じ旋律の繰り返し、ああ、重く、深く、力強く…。やっぱり切ない、でも惹かれる。そんな曲。
最初はゆっくりなのに、気が付けば速くなってる…指の動きを目で追う…滑らかで美しい。
全て弾き終えて、鍵盤から指が離れる。曲の余韻が残る耳、蒼さんの演奏に酔った頭。
「次は何がいい?」
尋ねられて、ハッと現実に戻って来た。
「…次はお任せで、」
酔った頭は回らない。
「ん、じゃあ変わったタイトルの曲を、」
「変わったタイトル?」
「うん。今から弾くから、想像してタイトルを当ててみて。」
「分かった。頑張る!」
ははって笑った蒼さんの指が動き出す。うーん、綺麗な曲だと思う…イメージは秋。すごくあっという間に演奏が終わった。1分ちょっと位?
「何てタイトルを付ける?」
「秋の公園。」
「成る程。」
蒼さんが、うんうんと頷いてる。え、答えに近い?
「何てタイトルなの。」
正解だったら、蒼さんの子供の頃の写真を1枚貰おう!わくわくして、蒼さんを見詰める。
「答えは、…犬のためのぶよぶよとした前奏曲。」
「ええ?何それ。本当に?」
犬のためのぶよぶよ…、嘘だよね?
疑わし気な顔した俺に、蒼さんが苦笑した。
「本当だよ。」
そう言って椅子から立ち上がって、壁の本棚にずらりと並んだ楽譜の中から一冊抜いて持って来ると、ページを捲った。
「ほら、この曲。」
本当に、犬のためのぶよぶよとした前奏曲って書いてある!
「本当だ…。誰の曲?」
「エリック・サティ。」
「サティ…聞いた事ある。」
サティさん、衝撃的なタイトルです。
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