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第78話
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案の定、よく眠れなかった…。結局、寝不足。洗面台の前で鏡を見ながら、伸びてきた前髪に柏餅のピンを留めようとして、堪えきれずに口が開いた。
「ふあぁぁ、」
「ぷ、大きな欠伸だね。お早う、和君誕生日おめでとう。」
大口開けてたのを見られてしまった。うー、恥ずかしい。でも、おめでとうって言って貰えるのは嬉しい。
「お早うございます。覚えてて貰ってたんですね。」
「うん。クリスマスイブが誕生日とか、中々忘れられないよ。これ、プレゼント。」
「えっ、プレゼントまで…わぁ、凄く嬉しいです!有難うございます。」
紙袋を渡される。ちよっとだけ重い、何だろう。瑆司さんの誕生日は来月だから、ちゃんと忘れずにお返ししなきゃ。
「どういたしまして。早速後で開けてみて、今日から使って貰いたいから。」
「はい。」
わー何だろう!わくわくして早くプレゼントを開けたくて、焦って柏餅のピンを前髪に留めようとしてる所為か中々上手く出来ない。
「ほら、貸して。」
瑆司さんが横からピンを取って、またもやさっと一瞬で何だかオシャレに留めてくれた。
「うん、可愛い。」
「すみません、本当上手ですね。」
「和君は、ちょっと不器用なところが微笑ましいよね。」
「それって、褒めてるんですか?」
「うん。理想の妹。」
「妹…、」
あんまりにも、悪意の無い笑顔。嫌味とかじゃないんだなって分かるから、怒る気にもなれなくて、あははって気が抜けた笑いが出た。
黒猫、それは俺の中で蒼さんのイメージ。瑆司さんのプレゼントは、黒猫が描かれてる何だか可愛らしい湯呑みと茶碗と箸だった。
草部家では、お客さん用の食器を借りて使ってる。アパートで使ってた食器も有るけど、自分の物を食器棚に並べて貰うのは何だか図々しく感じて、ダンボール箱の中に閉まったままだった。だから、なのかな。
「お母さん、この食器を瑆司さんに頂いたんです。」
「あら、可愛い。」
「はい。あの、今日からこの食器を使いたいので、食器棚に置いてもいいですか?」
「もちろんよ。朝ご飯はもう前の食器に入れちゃったから、お昼ご飯の時にはこっちにするわね。」
「はい、お願いします。あ、朝食の準備手伝いますね。」
「ふふ。じゃあ、このお味噌汁を運んで貰っていいかしら。」
「はい。」
棚に黒猫の食器を入れて、味噌汁の乗ったお盆を運ぶ。食卓の上に既に据えてある茶碗には、珍しく赤飯が盛られている。
「わあ。赤飯、美味しそう。」
赤飯大好き。うふふ、嬉しい。何だか、赤飯っておめでたい事のあった証の様な感じで、特別な気持ちになる。
「今日は、和君の誕生日でしょう。だから赤飯なのよ。うちは、家族の誕生日には必ず炊くの。」
俺の声が聞こえたのか、お母さんが台所から返事をする。
「えっ!そうだったんですか。すみません、俺の誕生日にまで、」
「あら、もう家族の一員でしょ。お誕生日おめでとう。」
「有難うございます。すごく嬉しいです。」
こんなに良くして貰えて、本当に感謝してる。もう、娘扱いでも、妹扱いでもいいや。
思えば、俺は男らしいところなんて殆ど無いし、女友達にも同性みたいな扱い受けてるもん。今更、男って性別にこだわるのもおかしな感じ。
それに、彼氏もいるし。
開き直り…そうかもしれないけど、これが自分なんだし、彼を好きなのは恥ずべき事じゃない。
いつか、蒼さんの家族とも会えるといいな。
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