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黄金の王妃・6
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謁見の公務はお昼まで続く予定だったけど、隣国の使者が退出した後、オレだけ「下がっていい」って言われて奥に戻った。
そしたら、そこにいるハズのない顔があって、ビックリした。
「えっ、シノーカちゃん!?」
首都の宮殿で、後宮の留守を守ってくれてるハズなのに、どうしたの?
本人の口から訊きたかったけど、シノーカちゃんはすっごく無理して来てくれたみたいで、ぐったりと眠ってしまってた。
王様は、「奥向きの下らないこと」って言ったけど……こんなにまでして知らせに来たって、相当大事な話なんじゃないのかな?
「あの、何があったんでしょう?」
恐る恐る尋ねると、キクエさん達は困ったように、顔を見合わせた。
そして、教えてくれたんだ――後宮がのっとられたって。
「あの大臣の差し金ですわ!」
「この旅行を待っていたのに違いありません」
「なんて小賢しい男でしょう!」
侍女たちは、口々にそう言って怒った。
どうやら、オレ達が宮殿を出発してすぐ、後宮の中に数人の「強力な後ろ盾を持つきちんとした姫」が、次々に入って来たらしい。
勿論手ぶらじゃなくて、それぞれ豪華な支度を整え、大勢の侍女たちを連れて。
オレは正式な王妃だから、オレの使ってる辺りとか王様の居室辺りなんかは、さすがに大丈夫だったみたいだけど……でも、それ以外のほとんどの部分を、姫たちに占拠されたんだそうだ。
下らない奥向きの話だ、と、王様がため息ついたのを思い出す。
本来後宮は、たくさんの美しいお妃様やお姫様、そして若く美しい侍女たちがいて、とても華やかで賑やかな場所だ。王妃になったとはいえ、こんなオレなんかがたった1人で、とうのたった侍女たちを連れて独占してた方がおかしい。
オレが初めて後宮に入った時、豪華でキラキラなのに、妙にしーんとしてるように思ったっけ。
王様も、オレ1人じゃなくて、たくさんの美しいお妃様に囲まれた方が嬉しいのかな? 後宮が賑やかになるんなら、そっちの方がいいんだろうか?
王様の為を思うなら――そう、大臣も思ったのかな?
若くてきれいな侍女が入って来るのだけでもイヤだったのに、美しいお姫様たちなんて。オレ、どうすればいいんだろう?
「王様に触らないで。出て行って」って、オレなんかがエラそうに言っちゃダメ?
後宮の最高責任者なのに。お姫様たちを追い出す権利って、ないんだろうか?
「大臣はあろうことか、『姫君達と御一緒がお嫌なら、王妃様は西の城にお残りになればよろしいでしょう』などと申したらしいですわ」
「なんて失礼な!」
「不敬にも程がありますわ!」
侍女たちが、自分のことみたいにプリプリ怒ってくれたので、気持ちがちょっとだけ楽になった。
けど――。
「陛下だって、きっと黙っておられませんわ」
「そうですわ、だって王妃様は愛されておいでですもの。ねぇ?」
そうやって口々に言われると、余計に不安になっていくのはなんでだろう?
さっき、隣国の使者の前で、ちらっと見せた冷たい態度が頭をよぎって、とても怖い。
勿論、公務の時とプライベートな時間と、きっちり分けなきゃいけないのは分かってる。オレだってみんなの前で王様に甘えたりしないんだし、それと一緒のことだ。
でも、もし、後宮に来た他のお姫様たちの前でも、あんな風に冷たくされてしまったら……?
午前の予定がすべて終わり、王様がお昼に顔を見せるまで――オレはぐるぐると悩み続けた。
「アイタージュ、話は侍女から聴いたか?」
城の奥に戻って来た王様は、オレを抱き締めて「心配するな」って言ってくれた。
「こんなふざけた真似は、許さない」
って。
そして、側近たちと執務室にこもり、対策会議を始めたみたい。
一方のオレは、落ち着かない午後を過ごすしかなかった。
王様が抱き締めてくれて、少しはホッとしたものの、やっぱり心は晴れなかった。
ビルジ先生と勉強の予定だったけれど、胸の中がモヤモヤして、じっと座ってもいられなかった。勉強に集中なんてできない。
オレを見て、一目でその心境が分かったんだろう。「今日はやめにしましょう」ってビルジ先生に苦笑された。それにビルジ先生も、側近として、会議の進行が気になるみたい。オレに一礼して、執務室の方に向かってった。
「王妃様、お散歩に出られませんか?」
そう気分転換を提案してくれたのは、キクエさんたちだ。散歩なんて気分じゃなかったけど、せっかくだし、湖の周りを少し歩くすることにする。
散歩には、キクエさんの息子で近衛兵のエール君と、ケディさんの息子で、やっぱり近衛兵のイゼル君がついて来てくれた。
この2人はオレと同年代で、近衛兵の中では下っ端なんだけど、でも顔見知りだし話しやすい。この間、お忍びで街を歩いた時も一緒だったから、少しは気が楽だ。
お忍びの間、イゼル君は役になり切って敬語も使わず、友達みたいに接してくれた。その一方でエール君は真面目な人だったみたいで、どうしてもオレに敬語使っちゃって。「お前はもう黙ってろ」ってイゼル君に怒られたりしてたの、見てるだけで楽しかった。
王妃って何だろう。
身分の低い、旅芸人あがりのオレが王様の正妃だなんて、やっぱり不自然なんだろうか?
それに、どんなに頑張って勉強しても、王妃らしく振舞っても、オレは王様の跡継ぎを生むことはできない。そういうのは、やっぱり他の人に任せなきゃいけなくて――だから、後宮にたくさんのお妃様を入れるのは、正しいとしか思えない。
でも、どんなに「正しい」って分かってても、イヤなものはイヤだ。
イヤもダメも禁止だって王様には言われてるけど、こういうことに関しても、その命令は絶対なのかな?
王様を独り占めしたいなんて……身の程知らずな願いかな?
あと1年、せめてあと半年、他のお妃様を持つのは待って欲しい。今はまだ、王様と2人で過ごさせて欲しい。でも、そう言ってしまうのはワガママかも知れない。
……どうしよう?
オレはそんな結論の出ないことを、散歩の間もぐるぐる考えながら歩いていた。
だから、エール君が「おい」と声を上げた時、すごくびっくりして、顔を上げた。
でもエール君が呼びかけたのは、オレじゃなくてイゼル君で……その視線の先にあるのも、オレじゃなくて木立の奥だった。
そこには小さな舟が一艘、伏せられて落ち葉に隠されていた。
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