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黄金の王妃・14
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それからすぐにたくさんの人が来て、シノーカちゃんが担架に乗せられ、医務室に運ばれて行った。
エール君とイゼル君は、立ってられないくらいの大ケガをしてたのに、担架を拒絶し、オレの前に来てひざまずいた。
「力が足りず、面目もございません」
「お護りし切れず、申し訳ございませんでした」
深く頭を下げられて、嘆くみたいに謝られると、さすがに慌ててしまう。
「そんな……」
そんなことないですよ、って言おうとしたけど、ノドがしゃがれてしまってて、言葉の代わりに咳が出た。
ごほごほと咳込み、ノドに手を当てる。
「アイタージュ、もう喋るな」
王様にたしなめられたけど、でも、ここはちゃんと言っとかないと後悔する。
オレは首を振り、2人の近衛兵の前に屈み込んで、手を握った。だって、2人とも謝る必要なんてない。自分を責める必要もない。
「護ってくれて、ありがとう」
ノドを使わず、囁くように礼を言って、精一杯にっこりと笑う。
作り笑いなのはバレバレかも知れなかったけど、でも、感謝をちゃんと伝えたかった。
シノーカちゃんにも言わなきゃいけない。自分を責める必要、ないんだって。仕えてくれるみんなに、誤解無いように感謝を伝えるのも、きっと王族の仕事の1つなんだ。
その正しさを証明するように、王様がオレの肩を優しくぽんと叩いてくれた。
「これの言う通りだ。王妃をよく護ってくれた。オレからも礼を言う。ありがとう」
王様が2人にそう言うと、2人とも泣きながら頭を下げた。
そして……担架に乗せられて、今度こそ医務室へと運ばれて行った。
2人を見送ってると、王様が気遣うようにオレの顔を覗き込んだ。
「アイタージュ、お前も治療が必要だ」
「ノド、なら……」
平気です、と言おうとしたけど、それだけじゃなかったみたいで首を振られた。
視線で促され、改めて自分の体に視線を落とし、そこで初めて気が付いた。花火のためにって用意された豪華な服は、あちこちが切られてズタズタで、うっすらと血まで滲んでる。
さっきの攻防で、浅い傷をいっぱいつけられてたみたい。剣先を避けるのに精一杯で、かすり傷なんて気にしてなかった。
今まで気付いてもなかったのに、意識し出すと突然、痛みだすのはなんでだろう?
「うわ……」
呟いて、ズキーンと痛む体を抱き締める。腕も足も背中も痛い。
「毒など使われてなくてよかった」
王様の言葉に、「はい」としみじみうなずいた。
オレは生まれながらの王族じゃない。剣の持ち方も、護身術も、何も知らない踊り子だ。無我夢中で、ひたすら剣を避けて避けてってしかできなかったのに、切り傷だけですんで、よかったくらいだろう。
殺されるかと思ったけど……というか、ああ死ぬんだ、って思ったけど。それが現実にならなくて、本当によかった。
オレを襲った男達3人は、まとめて床に転がされたままだ。生きてるのか死んでるのか、ぴくりとも動かない。
「王妃様、奥で手当とお着替えを」
キクエさんに促され、その部屋を立ち去ろうとして、男たちの前を通った。
その時、さっきのことを思い出して、立ち止まる。
「あの、賊の1人に見覚えが」
王様にそう言って、オレの首を絞めた男の顔を指差す。
多分、湖の管理人と一緒にいた男だ。けど、どうしてその顔に見覚えがあるのか分かんない。
――死ね、王子。
言われた意味も分かんなかった。「王妃」って聞き間違った? それとも、王様とオレを間違った? それとも……この国の王族の誰かと間違ったんだろうか?
先に起こったクーデターの後、たくさんの人を処刑した王様。血縁の近い方々はみんなお亡くなりになったハズだけど……オレのような薄い色の髪の方が、どなたかいらっしゃるのかな?
傷の手当てを終え、ノドを冷やし、着替えて再びその部屋に戻ると、賊の3人はとうに運び出された後で、代わりに数人の近衛兵が寝室で大工仕事をしてた。
トントントントン、カンカンカンカン、と騒がしい音を立てて、クローゼットの奥に板を打ちつけてる。
例の抜け道を封鎖するんだと聞いて、ちょっとガッカリしたけど、でも仕方ない。オレたちがここを去った後、冬から夏にかけて工事をして、いらない抜け道は、全部失くしてしまうんだとか。
「抜け道のこと、よく気付いたな。お前の手紙を見て危険を察し、馬を走らせて急いで来たのだ」
王様に抱き寄せられ、そんな風に言われて、じわっと笑う。
「手紙……」
生まれて初めて書いた手紙。他愛もない事しか書いてなかったつもりだけど、それで戻ってくれたなら嬉しい。ちゃんとオレの手紙を読んでくれたのも嬉しい。
恨み言なんか書かなくて良かった。
抜け道探検はできなくなったけど、それよりも、王様が帰って来てくれた方が嬉しい。
「アイタージュ、本当に、間に合ってよかった」
たくましい腕が、オレをきつく抱き締めた。固くて厚い胸に包まれ、「セレム様……」と彼の名を呟く。
大工仕事を終えた近衛兵たちが、一礼して素早く寝室を去って行く。
「陛下、残党は探させておりますので、ひとまずはお休みください」
王様の側近、デュランさんが胸に手を当てて頭を下げた。
「見つかり次第、報告を」
オレを抱き締めたままの王様の言葉に、「はっ」とうなずいて、デュランさんも立ち去った。寝室のドアが静かに閉められ、部屋の中は2人きり。
その途端、唇を奪われて――深く深く、口接けられた。
1週間ぶりの王様の唇。
1週間ぶりの王様の腕。
1週間ぶりの……。
「……っ、セレム様……っ!」
胸に熱いものが迫り、たまんなくなって、王様の首にしがみつく。
抱いてください、なんておねだりする勇気はちょっとないけど、気持ちを込めて、力いっぱい抱き付いた。
力強い腕に抱き上げられ、寝台の上に運ばれる。
「アイタージュ、傷に障る」
オレの望みを察したんだろう。軽くたしなめられたけど、でも我慢できない。首を振って、ますます強くしがみついた。
傷に障るとか、どうでも良かった。
もう血は止まってるし、包帯もいらないくらいの傷だ。それより、強く抱いて欲しい。もう放さないで欲しい。
――安心させて欲しい。
「かすり傷です」
真っ黒な瞳を覗き込み、精一杯訴えると、王様は少し困ったように笑った。
「なら、見せてみろ」
そんな言葉とともに、絹の服が脱がされる。
花火がとうに終わってた事に、オレはこの時、ようやく気付いた。
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