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黄金の王妃・21
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いつも通り、ゆっくりとお風呂に入って、バラのオイルでマッサージして貰った。
それからシノーカちゃんの入れてくれた冷たいお茶を飲み、甘いお菓子を食べて、はーっ、と息を吐く。
リラックスしたいのに、なんとなく居心地が悪い。
でも、これもその内慣れてくんだろうか?
若く美しい王女様の侍女は、やっぱりみんな、若くて美しい人ばかりなのかな?
オレの周りにいるのは、シノーカちゃん以外はとうのたった人ばっかだから、賑やかにしてても騒がしいとは感じない。
若い女の子たちの高らかなざわめきは、何だか耳や胸をちくちく刺すようで、不安になる。
こんなことなら、もっと若い侍女を多く入れて、慣れとくんだった。そしたら今みたいに、動揺しなくてすんだのに。
でも、王妃のオレが、王女様を気にして不安がってちゃいけない。
「どうぞ自信をお持ちになって、しゃんとなさってくださいましね」
キクエさんも、晴れやかに笑いながら言ってくれた。
「それが、お仕えする私どものためでもあり、ひいては陛下のおためにもなるんですよ」
オレが王妃らしく、堂々と振舞うことが、ひいては王様のためになる……。それは、オレがこの城に来た日から、何度となく言い聞かされてる言葉だ。
オレを信じろ、って王様は言った。
王様がそう言うなら……オレは、信じるしかできない。
信じないという選択肢は、なかった。
2杯目のお茶を飲んでるとき、先触れが来た。
「我が主、イェシム・アズマーン・ユルド・ルリ王女が、王妃様にお目通りをお願い申し上げております」
キクエさんが、穏やかにうなずき、優しい笑みのままオレを見た。
上手に笑えたかどうかは分かんない。けど、オレも精一杯微笑んで、「どうぞ」と答えた。
そこから、王女様がやって来るまでは、すっごく緊張した。
お茶のカップを持つ手も震えて、ダメだなぁと思う。
さっきの、隣国の外務大臣のことを思い出す。
落ち着かないのは、緊張のせい? それともやっぱり、恐怖のせいかな? まさか、後宮に来てまで狙われるとは思ってないけど――。
「王妃様」
キクエさんの温かい手が、オレの肩に添えられる。
やがて廊下に、数人の足音が近付いた。
数人の若い侍女を連れてオレの前に現れたのは、やっぱり、さっき花道で見かけた青いドレスの人だった。
1人だけ、オレと似たような髪色の侍女が混じってるけど、その顔をじっと見るより先に、王女様に挨拶される。
「イェシム・アズマーン・ユルド・ルリと申します。王妃様……」
オレより3つか4つ年上だろうか?
若くきれいな女の子の声。波打つ豊かな黒髪が、下げた頭と共にふわりと揺れる。外務大臣のことは聞いてないのか、それについてのお詫びはない。
ただ、ゆっくりと顔を上げて――目が合った瞬間、息を呑んだ。
ドキッとした。
見覚えがある。いや、それ以前に、オレの顔にそっくりだ。
オレの側にいる侍女たちも、同じくビックリしたみたい。息を詰める気配がした。
なんで? なんでオレが、王女様と同じ顔立ちなんだろう?
「アイタージュ……」
オレの名を呼び、みるみるうちに顔をくしゃっと歪めた彼女は、さっと立ち上がるや、オレの方に飛びついて来た。
避ける間もなかった。
キクエさんたちも、きっとビックリし過ぎて動けなかったんじゃないかと思う。
「生きてた! ホントに! 本物のタージュなのねっ!?」
涙声で叫ばれながら、ぎゅーっと抱き締められて、息が詰まる。
年上とはいえ、王女と王妃なら身分上はオレの方が上だ。でも、いきなりこんな風に抱き付かれても、不敬だとは思わなかった。イヤな感じもしない。
なんでだろう? 胸が熱くなって、目も熱くて、訳も分かんないまま涙がこぼれる。
「タージュ……」
王女様が、同じく泣きながらもっかい言った。
タージュって、オレのこと?
今までそんな風に親しげに呼ばれたことなんてなかったと思うのに、なんでかひどく懐かしい。
「まあまあ、王女様」
「どうぞ落ち着きくださいませ」
キクエさんたちがやんわりと促してくれて、王女様とオレとを引き剥がす。
「あの……王女様……?」
恐る恐る声をかけると、彼女は長い黒髪ごと、頭を横にぶんぶん振った。
「ルリって呼んで頂戴、タージュ。昔みたいに!」
「ルリ……様……?」
促されるままそう呼ぶと、王女様の連れてきた侍女の1人が、わっと顔を覆って泣き出した。オレと似たような髪の色、薄い金髪の人だ。
よく見るとキクエさんたちとそう変わんない年頃みたいで、若い侍女の中にいて目立ってる。
若い侍女が1人だけのオレと、反対だな。そう思ってぼうっと見つめると、その侍女は床に伏せ、頭をこすりつけるようにして、「ごめんなさい」って謝りだした。
「ごめんなさい、ごめんなさい。愚かな私にどうか罰を」
って。
何を誰に謝ってんのか、分かんない。
分かんないのに、罰なんか与えられる訳ないし、困惑するだけだ。
もしかして、王様が言ってたオレの血縁ってこの人? 王女様の侍女? そう言われても、まるっきり覚えがなくて、頭の中は砂嵐みたいに真っ白だ。
ケディさんたちオレの侍女が、「あらあら」とか言いながら、その人の側に寄ってってなだめてる。
「あの、顔を上げてください」
オレは自分の頬をぬぐいながら、その侍女に声をかけた。
自分の侍女でもないのに、王女様を差し置いて、そう促していいのかどうかは分かんない。でも、オレは王妃だし。堂々としてなきゃいけないんだと思って、背筋を伸ばした。
「お顔を見せてください」
公務の時にするみたいに、覚悟を決めて声をかける。
それをどう思ったのか――。
「タージュ!」
目の前の王女様が、オレをじっと見て声を上げた。
「ナオエを責めないであげて! あなたの命を、守るためだったの!」
命を守る……?
ナオエ……?
その名前には聞き覚えがなかったけれど、何となく、その金の髪が記憶をかすめた。
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