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一条翼
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リョウさんと別れ、10時過ぎにアパートの玄関ドアを無言で開けた。
「おかえりー」
機嫌のいい母の声が聞こえて一瞬耳を疑った。
母の"おかえり"を聞いたのはいつぶりだろうか。
「た、だいま」
驚きと嬉しさで一間置いて返事をしたその時、洗面所の扉が開いて髪の濡れた男が出てきた。
「あー、いいお湯でしたー
……ん?あぁ、息子さん?」
背が高くて顔の整った知らない男。彼は僕を見て、そして母さんに笑顔を向けた。
その男が誰なのか、なぜうちの風呂から出てきたのか、何もわからず僕も母を見ると、母は笑って男の腕に自分の腕を絡めた。
「この人は一条翼さん。今日からしばらくうちに住むのよ。
翼クン、息子の葵よ」
「ヨロシク、葵くん。突然お邪魔しちゃってゴメンね。
少しの間居候させてもらうけど、仲良くしよう」
はい…?居候?うちに?
母さんと僕の2人でもギリギリな生活なのに?
ていうか母さんとはどういう関係なの?
母さんは…この人のこと、好きなの…?
ぐるぐると渦を巻いた頭から言葉は出て来ず、黙ったまま目の前で絡んだ腕を呆然と見つめる。
バシッ
気づいたら僕の顔は横を向いていた。
頰がジンジンと熱を持つ。
「挨拶も出来ないの?全く、本当にこの子は…」
再び振り上げられた腕を見て、構えるように体を硬くし目を瞑る。
しかし予想してた痛みはいつまで経っても来ない。
恐る恐る目を開けると、一条翼が母の腕を掴んで止めていた。
「まあまあ、葵くんも混乱しているんでしょう」
宥められた母さんは諦めたように手を下ろし、
「とにかく、挨拶くらいしなさい」
と溜息混じりに僕に言った。
「…息子の、望月葵です。
よろしくお願いします…」
「うん、よろしくね」
男は女性受けの良さそうな微笑みを向けた。
それから3人でちゃぶ台を囲い、こうなるまでの経緯を聞いた。
一条翼、29歳。
夜の接客業…つまりはホストをしていたそうだが、店で暴力事件を起こし解雇された。
母は彼をかなり気に入っていて、クビになって住んでいたアパートも追い出された彼をうちに連れてきたそうだ。
母が最近何かと大金を求めてきたのはこの男に貢ぐためだったのかもしれない。
久々に母の笑った顔を見ることができたのは嬉しいが、僕はこの一条翼が良い人だとはあまり思えなかった。
なんというか…笑顔が嘘くさい…
正直居候も勘弁してほしいが、それを言おうものなら追い出されるのは彼ではなく僕だろうことは容易に想像できるので、ただ黙って一条を家に迎え入れた。
早く彼が出て行ってくれることを願って。
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