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帰宅すると、母と一条さんが楽しそうに話している声がした。
「…ただいま」
僕が帰ってきたと気づいても母さんは僕を見ず、おかえりも言わない。
その代わり、帰って来なければ良かったのにと言わんばかりに眉を寄せた。
今日は…いや、今日も機嫌悪いのかな。
僕が帰ってきたせいで悪くなったのかもしれないけど。
こういう日はできるだけ接しないのが一番…
しかし、その逃避策は一条さんによって妨げられることになる。
「あれ、葵くん髪切ったんだね!スッキリして可愛くなった」
男に可愛いってどうなの。
いかにも元ホストらしい、女受けの良さそうな台詞を吐く彼にそう思いつつ、どうも、と適当に軽く頭を下げる。
一条の言葉に反応したのかようやく母は僕を見て、忌々しそうな顔をした。
「まさか美容院に行ったんじゃないでしょうね」
ああ、そんなことにお金を使ったんじゃないかって疑っているのか。
良かった…少し申し訳なくもなったけど、タダでやってもらえて…
今になってもう一度、お姉さんに感謝した。
「友達のお姉さんが美容師の見習いで、練習として無料で切ってもらったんだ」
そう言うと母は「あっそ」と興味を無くしたようにそっぽを向いた。
反対に一条さんは僕の顔を穴が空くほど見つめている。
「あの…なんですか?」
視線に耐えられなくてそう聞くと、一条さんは「ああ、ごめんね」と手を顔の前で振りながら笑った。
「葵くん、そんな顔してたんだ〜って思って。
前髪で隠れて気づかなかったけど、大きな目してるんだね」
女の子じゃないから、目が大きいと言われてもそこまで嬉しくないけど…
健人のお姉さんにも同じことを言われたが、そんな風に褒められたのは今日が初めてだ。
自分では今まで少しも自覚していなかった。
髪型が変わるだけで髪以外のことにも気づかれるものなんだな…
自分は他人の変化にそこまで気づいていただろうか。少し考えてみても、思い当たる節はない。
人付き合いの量の差か、性格の差か…
色々挙げられるが、一番の原因は人を見ようとしてこなかったことだろう。
少しは他人を見てみるのも面白いかもしれない…
この時物思いに耽っていた僕は、一条さんの目の色が変わったことに少しも気づいていなかった。
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