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嘘
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僕の手首を握るその手を伝い、腕、肩、首、そして顔を見る。
「じゅ、ん…」
潤が一条を睨みつけていた。
周りにちらほらと僕らを見てる生徒はいるのに、潤がそこにいることが何故か酷くショックで、胸がキリキリと痛み出す。
潤に、一条と自分がいるところを見られたくなかった…
「ん?葵くんの友達?」
その声にハッと我に帰る。
一条の声色は柔らかいが、それが逆に恐ろしかった。
ホストをやっていただけあって、この男は表情を作るのがうまい。
僕も、ついこの間まで騙されていた。
最初から気を許したつもりはなかったけれど、あんな目に遭うなんて考えもしなかった。
おそらく多くの人が、その綺麗な笑顔に騙されているだろう。
しかし潤は、釣られなかった。
「そうですけど、あなたは誰ですか?
葵の親戚か何かですか?
こんな所で生徒を無理矢理連れて行こうとしてたら、怪しさムンムンですけど」
顎を上げて強気で言う潤に、少し驚く。
隣にいる潤に、僅かに安心感を覚えた。
しかし、それ以上に恐怖が心を覆う。
目の前の男に対して。
「無理矢理ってつもりじゃないんだけどなぁ、
ねえ?葵くん」
一条は人の良さそうな笑顔で潤を見、そして俺にも微笑んだ。
でも、はっきりと分かる。
その笑顔の裏には苛立ちが籠ってる。
「…は、い…」
気がつけば、そう答えていた。
そして一度口から嘘が零れれば、続く言葉も嘘ばかりになった。
「この人は…母さんの知り合いで僕もよく知ってるし、怪しい人なんかじゃないから…だいじょうぶ、だ。
ごめん、僕の態度がおかしかったから心配してくれたんだよな。
ちょっと…体調悪いだけだから、気にしないで。
変な心配かけて…ごめん」
いつも通り話せているだろうか。
手は震えていないだろうか。
ちゃんと笑えているだろうか。
潤の目が見れない。
ほんの少しの間に、緊張で胸を締め付けられた。
「…本当か?」
「…ほんと、だよ」
ごめん、ほんとは、うそだよ…
潤は、握っていた手を静かに離した。
「もういいかな?
…じゃあ行こっか、葵くん」
歩き出す一条の後に続いて、僕も足を進めた。
胸が痛い。呼吸がしづらい。
後ろを振り返ることは、とてもじゃないけど出来なかった。
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