アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
夢と現実、過去と現在
-
夢を見た。
それは幻想的なものでも非現実的なものでもなく、幼い頃の自分の夢だった。
あれは僕が小学一年生くらいの時。
家族で動物園に行ったんだ。
人混みの中で僕はみんなを見失ってしまった。
不安で怖くて寂しくて、一人座り込んで泣いていると誰かに頭をぽんと撫でられた。
ふわりと懐かしくて優しい匂いがした。
「もう。離れちゃダメでしょ?」
母さんは顔を上げた僕の涙を拭き、そっと僕の手を握った。
「放しちゃだめよ」
僕は大きくて温かい手を、決して放さないようぎゅっと握りしめた________
朝5時、自然と目が覚めた。
何時に寝たのか、というよりいつ意識を失ったのか分からない。
起き上がろうと体を動かすと、全身が酷く痛んだ。
服の中、痣だらけなんだろうなぁ…
確認しなくても想像できたので、あえて自分の体を見なかった。朝から見て気分の良いものではないだろう。
ただ、他とは異質の痛みを放つ腕だけは治療のためにも見ておこうと目をやると、べっとりと赤黒い血が固まっていた。
ガラスの破片で切った傷は思いの外深かったようだ。床にも血が溢れている。
腕をよく見ると、傷口は手首より少し下辺りから7センチほどざっくりと切れており、絆創膏では手に負えそうもなかった。
とりあえず手を洗おうと洗面所に向かう。
「これは…どうしようかな…」
洗面台の鏡に映った自分の顔は、頬は腫れ、口元は切れ、鼻血は固まり、とにかく随分汚い顔をしていた。
このままにしておいても、ガーゼや絆創膏を貼っても、どちらにせよ潤たちに会ったら何か言われそうだ。
鼻血はまだしも、顔の傷はこれだから困る。
うーん…マスクでもするかな…
目より上に傷がないのは不幸中の幸いと言えた。これくらいならなんとか隠せるだろう。
昨日風呂に入り損ねてしまったことを思い出し、シャワーを浴びる。
風呂で自分の体を全く見ないなんて無理な話で、結局しっかりと体のそこかしこにできた痣を見ることになってしまった。
予想通り気持ち悪いくらいに酷い色をしていて、無意識に溜息が溢れる。
これは…潤たちに見られないように気をつけないとなぁ…
烏の行水でシャワーを済ませ、腕の傷にガーゼと包帯をつける。
怪我をしたのは右手だったので利き腕でない左手で包帯を巻くことになったが、自分の怪我の手当てには慣れている。
大して時間もかからなかった。
制服に着替えて簡単な朝ごはんを作っていると、ガタリと後ろから物音がした。
母さんが起きたみたいだ…
やはり昨日の今日で恐怖というのは簡単に除けるものではなくて、勝手に手が震え指先が冷える。
挨拶をすべきか否か迷ったが、喋ると声が震えてしまいそうで何も言えなかった。
しかし母さんは僕を一瞥するとすぐに興味なさげに視線を外し、テレビを見始めた。
…いつも通りだ。
一時的に嵐が治まっただけかもしれないが、目の前の母は至っていつも通り、僕を嫌い、そこにいないかのように扱う母だった。
まるで昨日のことなどなかったかのように…
なら昨日の母はなんだったんだろう…
答えの出ない疑問がずっと心に引っかかる。
考えても拉致があかないので、気を取り直して卵をフライパンに落とす。
自分と母の2人分の朝ご飯を作り、母の分はテーブルに置いておいた。
そのままお互い一言も発さないまま、僕は家を出た。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
65 / 180