アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
マスク
-
「葵、おはよー…って、風邪か?マスクつけて」
「予防だよ。一応ね」
朝一番で潤にマスクのことを突っ込まれ、用意していた答えを言う。
12月にもなるとマスクを付ける人もちらほら現れて、僕が付けていてもなんら珍しくもおかしくもない。
これが夏だったらちょっとした変わり者だ。
「あー、テスト前に風邪引きたくないしな。
…でも葵、何か顔色悪いぞ。大丈夫か?」
「そ、そう?多分寝不足じゃないかな…」
「忙しいんだろうけど…テスト明日からなんだからちゃんと寝ろよ?」
「うん、今日は早めに寝るよ」
テスト期間と前日である今日はバイトを入れなかった。
特に居酒屋の方は、深夜1時までのバイトだと寝るのが早くても2時になり、寝不足は避けられないからだ。
さすがにテスト前日くらいはしっかり寝て、万全の体調で挑みたかった。
僕の場合、定期考査には来年の特待生の権利が懸かってる。あまりにも酷い成績を取ると特待生から外され、学費も自費負担になるのだから、もしそうなったらお先真っ暗だ。
今までの成績から見ても大丈夫だとは思うが、油断して失敗はしたくなかった。
テスト範囲が終わった教科は先生が自習時間をくれるので、前日ともなればほとんどの授業が自習になった。
全員が黙々と勉強し、教室にはペンを走らせる音と紙の音だけが響く。
この静かで張り詰めた空気が僕は結構好きだ。
一人でやる時よりも格段に集中できる。
寝不足が続いているのに睡魔に襲われることもなかった。
あっという間に午前の授業が終わり、昼休みになると教室はいつもの賑やかさを取り戻した。
少しすると健人が教室にやってきて、三人で机を囲む。
持ってきたお握りを食べる。
と、潤が驚いたように目を見開いた。
「葵…お前、そこどうした?」
指摘されてようやく、傷を隠すためにつけていたマスクを外してしまったことに気付いた。
…迂闊すぎる…
ずっと付けていたから慣れてしまい、その目的をすっかり忘れていたなんて…
「えっと……昨日…色々あって…」
必死で言い訳を探すもいいものが思い浮かばず、うやむやに言うと潤も健人も顔をしかめた。
「色々ってなんだよ」
「どう見たって殴られた痕じゃん」
「う……えっと……あ、昨日、酔っ払いに絡まれちゃって……アハハ…」
殴られた痕と限定されてしまえば、電柱にぶつかったとかそんな嘘はつけず、架空の酔っ払いに罪を被せた。
「はあ?信じらんねえ!」
健人が呆れたように言った。
「うん、情けないよね。絡まれるなんて」
「そこじゃねーよ。大の大人が酒に酔って葵みたいなやつ殴ったってこと。最低だぞ」
「そ、そうだね…」
「それより大丈夫なのか?他になんかされたりとか…そんな腫れるなんて、警察に訴えても良いくらいだぞ」
「いやホントに大丈夫だよ!昨日冷やしたりとかしなかったから余計ひどく見えるだけで…」
苦笑いしながら頬を隠すように手で押さえる。
二人には申し訳ないが、二人がこんなに怒りを露わにするなんて予想外で、驚くと共に、それがほんの少し嬉しくも感じてしまった。
でも……また嘘、ついちゃったな…
こんなに優しい人たちに嘘を重ね続けてる。
最低なのは、僕の方だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
66 / 180