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潤の父
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潤のお父さんは開業医で、自宅の隣に診療所があるようだ。
平日の午後である今は仕事中らしく、潤の家に車が停まると僕はまず診療所の方に案内された。
待合室で少し待ち、診察室に呼ばれる。
潤は一緒には来なかった。
「こんにちは。望月葵くんだね?」
「はい」
潤のお父さんは顔立ちは潤とよく似ているか、潤と比べると落ち着いた雰囲気をしていた。
潤の性格はお母さん似なのかもしれない。
「潤一から話は聞いているよ。頭を怪我しているんだって?見せてみて」
椅子に座り、額を隠す前髪を上げる。
先生は傷を見て、消毒液に浸された綿で傷口を拭いた。
「…うん、血は止まってるね。
このくらいなら弄らなければすぐ治るよ。もし傷口が開いたり痛んだりしたらまたおいで。
倒れたのは脳震盪だろう。今日は安静にね」
慣れた手つきでガーゼとそれを固定するテープを貼られる。
「はい。ありがとうございました」
手当てが終わり、カバンを持って立ち上がろうとすると、「待って」と呼び止められた。
「右腕も怪我してるね?潤一に頭だけって言われたけど、ちょっと見せてくれないかな。
やっぱり医者として放っておけないんだ」
「…はい」
丸椅子に座り直し、袖をまくる。
母さんと揉み合った時にガラスの破片で切った傷は、治りが遅くて今も包帯をつけていた。
先生はするするとその包帯をはずし、傷口を真剣な目で見る。
「結構大きな傷だね。怪我した直後なら縫ってもいいくらいだよ。少し炎症を起こして腫れてるから、塗り薬を出すね」
「…すいません」
小さく謝ると、大きな手が僕の手を包んだ。
傷に薬を塗られ、その上にガーゼを当てる。
新しい包帯を巻きながら、先生は柔らかい声でゆっくりと話し始めた。
「潤一にね、怪我を見るだけで事情とか怪我の理由とかは極力聞かないように言われているんだ。
だから私は何も聞かないし、話さなくていい。
でも、もし出来るようなら…潤一には話してやってくれると嬉しいな。
ああ見えてあの子は不器用だから、自分からは聞けないと思うんだ。
もちろん、君が無理する必要はない。
こういう事は本来親が口出しすべきじゃないからね」
潤のお父さんが言葉を選びながら伝えてくれたことの意味はよくわかる。
だからこそ、僕を迷わせた。
「…はい、考えてみます」
そんな曖昧な返事しかできなかったが、先生はニッコリと笑った。
先生が巻いた包帯は、やはり自分でやったものよりもずっと綺麗だった。
「最後にもう一つ。
潤一は、君のことを本当に大事に思ってるみたいだよ」
そう言って優しく微笑む顔は、やはり潤に似てると思った。
思いやりのある、温かい笑顔だ。
僕は会釈をし、無言で診察室を出た。
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