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暖かい家
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そろそろお暇しようと思った時、潤のお父さんが帰ってきた。
「おかえり、あなた」
「お邪魔してます」
「ただいま。いらっしゃい葵くん」
おかずと味噌汁を温め直す和葉さん、
冷蔵庫から缶ビールを出して席に座るお父さん、
まだ少し拗ねた顔でテレビを見る潤、
ソファーでいびきをかく啓一さん。
暖色の明かりがリビングを照らす。
普通の家族。
それがとても暖かくて、心地よくて…心のどこかで羨ましくなる。
妬みにも近いその感情がひどく汚らしく感じた。
「…じゃあ僕、そろそろ帰りますね」
ソファーに置いていたカバンを手に取る。
「あ、ちょっと待って」
和葉さんに呼び止められ、カバンを肩にかけたまま立ち止まる。
和葉さんはお皿に残ったおかずを大きなタッパーにいくらか移して僕に差し出した。
「作りすぎちゃったから、持って帰って食べて。見ての通り余り物だけど、冷蔵庫に入れといてチンして食べてね」
「あ、ありがとうございます。和葉さんの料理、本当に美味しかったので嬉しいです」
「あら、嬉しいことサラっと言ってくれるわね。いつでも食べさせてあげるわよ」
和葉さんは潤と同じ、屈託ない笑顔で僕の肩を叩いた。
「"和葉さん"か、いいね。私のことも総司さんって呼んでよ」
僕と和葉さんのやりとりを見ていたお父さんが、突然そんなことを言い出した
「いえ、それはなんか……恐れ多いです」
「ははっ、恐れ多いと言われるとは。でもこういうのは慣れだよ。ほら、呼んでみて。はい」
促すように音頭を取られ、恐る恐る口を開く。
「そ、総司さん…」
「うん、いいねぇ、息子くらいの歳の子に名前で呼んでもらうのは、なかなか新鮮な経験だ」
医者と患者として話した時より緩い喋り方になった気がするのは、少しお酒が入ったからだろうか。
それでもその優しい雰囲気は変わらなかった。
「帰るなら送る」
潤が立ち上がって僕の隣にやってきた。
「でももう遅いし…」
「遅いからこそだよ。それに、そもそもうちからの帰り方知らないだろ」
そういえばそうだった。
初めて来た上に、行きは車に乗せてもらったから道は全くわからない。
「じゃあ…お願いします」
総司さんがちょいちょい、と手招きをして僕を呼んだ。近寄ると耳元に顔を寄せて、
「その様子じゃ、話したんだね」
そう耳打ちした。
なんでわかったんだろう…
その様子って、どこを見てそう思ったのかな?
「…はい、話しました」
正直に頷くと、よしよしと頭を撫でられた。
あまりに突然触れられて驚く。
谷原家はみんなスキンシップが激しい…
あまりそういうものに慣れていないので、油断してると心臓がいくらあっても足りなくなる。
……でも、暖かい。
初めて来たとは思えないほど、この家が居心地よく感じる。
家に帰りたくなくなりそうで、頭を振ってその名残惜しさを消した。
あんまり暖かい場所にいると、寒い場所に戻れなくなりそうで怖い。
ここが潤の家であるように、僕の家もちゃんとあるのだから、帰らなきゃいけないんだ。
ここは、僕の居場所じゃない。
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