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他人丼
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時間潰しにテレビをつけつつ二人で雑談をしていると、突然グーと低い音が響いた。
音の出所を見ると、片手をお腹に当てたリョウさんが少し恥ずかしそうに頭を掻く。
「あ…あはは、腹鳴ってもうた」
壁の時計を見上げるともうすぐ7時になろうとしていて、もうこんな時間だったのかと気付くと、自分も空腹感を覚え始めた。
「あの、それじゃ何か作りましょうか?夕飯時ですし」
「えっ、ええよ。悪いし」
「今日のお礼も兼ねて。大したものは作れませんが」
「…じゃあ、ご馳走になろうかな」
「はい。少し待っていてください」
台所に入り、袖をまくりながら何を作るか考える。
すぐに作れるもの…どうしようかな。
炊飯器のタイマーは出かける前にセットしておいたから米は炊けている。
味噌汁の具は、大根やジャガイモだと時間がかかるから豆腐とワカメにしよう。
おかずは……あるもので何が作れるかな。
冷蔵庫の中を見て、卵、玉ねぎ、あと昨日タイムセールで買った豚バラの薄切り肉を手に取る。
賄いみたいだが早く作れるし、他人丼にしよう。
切った玉ねぎと肉を酒やみりん、醤油と煮る。
これじゃ色がないし、ネギでも切ろうかな。
そう思い立ち青ネギも切って入れ、蓋をする。
その間に、だしを入れ沸騰させておいた鍋に、豆腐とワカメを入れて一煮立ちさせる。
他人丼の肉と玉ねぎが程よく煮えてきたら、卵を回しかけ軽く混ぜて完成。
味噌汁に味噌を溶かし味を整え、こちらも完成。
「ええ匂いやなぁ」
その声に振り向くと、リョウさんは僕のすぐ後ろに立っていた。
「ちょうどできたところです。あ、そこにどんぶりがあるので好きな量のお米をよそって下さい」
「了解」
味噌汁もお椀に注ぎ、リョウさんの持ってきたどんぶりの米の上に具をかける。
自分の分もよそい、ちゃぶ台に二人分の他人丼と味噌汁が並んだ。
「いただきます」
手を合わせるが、すぐには箸に手をつけず、つい1口目を口に運ぶリョウさんを見つめてしまう。
「ん、うまいでこれ!」
「はー、よかった。本当に簡単なものなんですが、味見してなかったのでなんか緊張しちゃって」
ほっと肩の力を抜くと、リョウさんは2口目3口目を口に含みながら笑った。
「ほんまにうまいで。あんな短時間でサクッと作れるなんて凄いなぁ!」
「大したことはないですよ。いつもご飯作ってるので、慣れ、ですかね…」
褒められると嬉しいが、照れ臭さをごまかすように1口食べる。
うん、悪くない出来だ。
「そういえばお母さんは帰り遅いん?」
突然の質問に思わず体がビクリと反応した。
いけないいけない、平常心平常心…
「えっと……そうですね、不規則なので決まってないんですが…今日は泊まりになるって言ってました」
母が仕事をしていると言う前提で嘘をつく。
成り行きが人に言えるようなことじゃないだけあって、母が失踪しているとは言えない。
言ってどうなるという話ではないし…
リョウさんもそれ以上深くは聞いてこなかった。
「あ、えっと、リョウさんは年末年始は大阪の実家に帰るんですか?」
静かになってしまった空気を持ち直すように話題を変えた。
「いや、今年は大学のイベントやら課題やら色々あって忙しいから実家帰らんねん。
うちの実家は別に正月だから家族みんなでー、とかこだわらん家やしな」
「そうなんですか」
「あ、せや。もしもっちーが良ければなんやけど、正月に初詣、一緒に行かへん?」
「初詣、ですか?」
「うん。正月に1人いうのも寂しいから誰かと初詣でも行けたらいいなあって」
「僕は特に予定もないので大丈夫ですよ。
あ、でも午後シフト入れちゃった」
年末年始は時給が高いから、特に予定もないと思って躊躇なくバイトを入れてしまった。
「大丈夫。俺も暇や思って、同じ時間にシフト入れてるさかい。
午前に初詣済まして、そのまま一緒にバイト行ってもいいしな」
「そうですね」
母が帰ってこなければ、1人で年始を過ごすことになっていただろうし、リョウさんからの誘いはありがたかった。
母が帰ってきても、おせちもないし特別何かする訳じゃないから、初詣には行けるだろう。
……正月までには帰ってくるかな、母さん……
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