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”-2” 猫、最愛の人と別れる ‐4
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静さんは、すごく しっかり者で
僕が、役立たずなことを、ちゃんと予測してて
エンディングノートを準備していただけじゃなく
その通りに遂行される手筈まで、完了させていたんだって
僕には、明かさなかったけれど
静さんは、去年の今頃、余命宣告を受けたんだって
膵臓癌で、転移が始まっていて
数年前には、子宮癌になって切除もしていたらしいけど
僕にはそれすら教えてくれてなかった
(ちょうど記憶喪失の後の鬱がひどい時で、言えなかったのかもしれないけど)
ホスピス制度を使っていて
自宅でギリギリまで療養して欲しいって書いてあった
事実、静さんは、佐倉家の自室で亡くなったから
ちゃんと意思通りに、中舟生のお義父さんが医師としてきちんと果たしてくれたんだ
エンディングノートを読めるようになったのは、ここ最近
本当は、そのノートには
火葬した後、すぐに、お墓に納骨するようになっていたんだけど
心の準備が全く出来てなくて
煙を見送った僕が、お骨壺を抱いて離せなくなって
見かねた爽くんが、皆に頭を下げてくれて
五十日祭ってので、埋葬祭を日延べして、代わりにしてもらうことになって
静さんのお骨は爽くんと暮らす東京のマンションに連れて帰らせてくれた
大学が春休みで
お葬式騒動も学業にはなんら影響がなくて
(春季のテストだって、最後まで受けたことになるし
追試の連絡がないってことは、留年もないみたいだから)
ずっと、田舎にいる時から、片時もお骨を離そうとしない僕を
そっとしておいてくれて
多分、1週間くらいあっちにいたと思うんだけど
爽くんに相談された植松造園の親方さんの辰三さんが
禰宜様に連絡してくれて、分骨してもらって持たせてくれた
その時に、女性の中年の禰宜様が
「佐倉静刀自命は、神様になられるのです。いつでも子孫たるあなたを見守る先祖神となられたのです。今は、悲しくて胸が塞がる思いでしょうが、神様になった刀自命は、どこにいても、誰かを見守れる・・・そうですね、少し前に、流行っていた千の風のようにって歌があったでしょう?あの感じだと私は思います」
そう言って、一回り小さなお骨壺を差し出してくれて
ずっと、東京に帰って、抱きしめて過ごしながら
それを考え続けてて
もうすぐ、弥生から暦も卯月に変わるよって
静さんも連れて、夜桜を見に行こうって、夜の大学の構内に爽くんに誘われて行って
遠くに桜並木が見えて
ふわっと
いっぱい散って舞ってる花弁を巻き上げた風に頬を撫でられて
静さん、が、「そろそろ、泣いちゃいなさい」って
囁いてくれたように感じて
だらだら滝のように、涙が込み上げて来ちゃって動かなくなった僕を
爽くんが困り果てて、そのままマンションに引き返した
結局、桜を見に行けず
部屋に戻って
僕は静さんの遺骨を抱きしめ
爽くんは、僕を優しく抱いて
ぽんぽん って
背中を叩いてくれたんだ
静さん直伝の、僕が早く泣き止む魔法は なかなか効かなくて
爽くんのお気に入りのきれいな淡い桜色のシャツは
僕の涙や鼻水や・・・もう色々ぐちゃぐちゃのせいで
静さんの桜って、僕が呼んでた高校の
古い江戸彼岸桜みたいに、濃い濃いピンク色になって
花曇りの空から、花散らしの雨がその夜は降り出して
「好きなだけ、我慢してた分も、いっぱいいっぱい泣いちゃえ」
言ってくれた爽くんの声も、鼻声で
「来年は、お墓詣りも兼ねて、静さんの桜を見に行こうな」
ずっといろんな優しい言葉を、爽くんは、桜の花びらみたいに
僕に降らせてくれた
それから、やっと、エンディングノートを読めるようになった
僕の知らなかったことが、いっぱい書いてあって
一度に読むにはしんどくて、少しずつなんだけど、ね
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