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”-2” 猫、最愛の人と別れる ‐6
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「この度は・・・あの・・・なんて言っていいか・・・その・・・」
野田さんらしくなく、元気がなくて、言い淀んでて
なんだか可笑しくて、くすって笑ってしまう
「もう!!笑わないでよ、こんなの言い慣れてないんだから!!」
「ごめん、ごめん。野田さんも、静さんのこと知ってるんだね」
すうっと、野田さんが息を吸う音がした
「知ってるし、今ね、圭介くん家にいるんだ。王子、留守にしてるんでしょう?」
「うん。よく知ってるね?」
「圭介くんに、頼んでおいたからね、爽王子が留守の時、教えてって。多分、一人でお留守番の時に絶対声かけると思ったんだ。圭介くん言ってたけどさ、もうね、すごーく健くんの心配してて、ずっと離れなかったんだってよ?」
おぼろげにしか覚えてない
ああ、もう4月になっていたんだったね
もうじき、静さんがいなくなってひと月になるんだ
ずっと、爽くん、側にいてくれたんだ
静さんの遺影となってしまった、僕達の入学式の時の写真の傍に、静さんは藍色のお骨壺に入って、そっと僕と見詰め合ってくれてる
爽くんと僕との緊張混じりの笑顔の間、お気に入りの小袖で本当に嬉しそうに笑う静さん
2年前の僕達の、今を知らない笑顔
静さんは、もしかしたら予感していたのかもしれない
・・・・・・ちょっとだけ、思った
「あたしさ、静さんに、メッセンジャーになること、頼まれてたんだ」
「メッセンジャー?」
「うん。去年の夏休みにね、偶々、妹の恩師のお見舞いにね、なでしこ病院に付き合ってさ。妹が制服姿だったから声かけてくれたんだ、静さん。妹、うちらの高校の後輩なんだよね」
なら、静さんにとっても後輩だね
僕の高校の静さんは遠い遠いOGなんだもん
確か、共学になった年の女子の一期生なんだって言ってた
「情けないんだけど、浴衣で買収されちゃったんだ。そんなのいいって言ったんだけど、お気に入りの浴衣で、娘さん?だと、健くんのお母さんになるのかな?が、袖を通さないまま、亡くなっちゃったんで、背格好も似てるし貰ってくれた方が私も嬉しいのって言ってくれたから、甘えちゃった」
見たことないな
どんななんだろう、お母さんの為に、静さんが作った浴衣
静さんは、器用な人で、和裁も洋裁も編み物も何でも出来た
お料理もすごく上手だった
褒めると、照れ屋さんな所があって
「私たちの年頃なら、出来て当たり前なの」って必ず言う
「コピーでごめんねって、お菓子作るの好きって、健くんから前に聞いたからって、お菓子のレシピもいっぱい貰ったんだよ。食べてみたかったな、健くんも作れる?」
うんって答えたかったけど、声が出なかった
泣きそうになってて、我慢してたから
「タケルくん?オレ。どう?朝飯、爽、用意してったと思うけど、食べれた?もし、行ってもいいなら、これから部屋に花菜ちゃんと一緒に顔を見に行きたいんだけど、かまわないかな?」
きっと、勘がいいケースケさんが気を利かせて
まだまだ話したそうな野田さんの代わりに出てくれた
「30分、時間くれる?着替えとか・・・・・・」
鼻声になっちゃったけど、やっと、絞り出して答えた
静さんのお気に入りだったケースケさんは、すべて察してくれて
「うん、急がなくていいからね」って穏やかに言ってくれた
同じマンションの3階に住んでる、ケースケさんと、何故だか鼻息が荒くなってて興奮気味で僕等の部屋の玄関に立つ野田さんを迎えたのは、1時間後だった
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