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”-1~+1” 王子の最愛の人々 ‐16
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真っ暗なリビングに、そこだけ微かに光る一筋。
音の元は、半分開いたままの冷蔵庫だった。
目を凝らせば、そのすぐ側の床に、何かがある。
何かがあるじゃない、いるんだ、健が。
持ってた荷を全部、ダイニングテーブルに放り出して、俺は駆け寄る。
乱暴に照明をつけて、シンクと冷蔵庫の狭い間に蹲ってる健を抱き起こす。
・・・・・・よかった、泣き疲れて寝てるだけだ。
しくじった・・・俺は、健に、飲み物を用意して置かなかった。
きっと、泣き過ぎて、喉が渇いて、ここまで来て。
健が飲めるものが何もなくて、力尽きて寝てしまったんだろう。
入ってるのは、俺しか飲まないビールやらなにやらで。
ミネラルウォーターを切らしてたし、健好みの飲み物も全部与えきってた。
パントリーに常備分、あるにはあったが、今の健に、そこまで探しに行く余力はないだろう。
やたら埃っぽかった東京の空気の悪い春の晴天のもと、
一日中走り回ってた羽織物のパーカーの袖では、健の顔を拭ってやるのが憚られ。
ピーピーまだ五月蝿かった冷蔵庫を閉めて、健を横抱きし、リビングのソファーへ横たえて。
タオルを取りに行こうと背を向けた。
ぐん、と。
パーカーの裾が引かれて、驚いて振り向くと。
俺の胸に身を躍らせて、ぎゅっと、健が抱きついてくる。
溺れる子供みたいに、必死に。
「行かないで、置いて行かないで」
弱いけど、小さいけど。掠れてて、聞き取りにくくて。 でも、届く声。
「大丈夫だよ、ごめんね。帰りが遅くなって。喉渇いたんだね?タオルとお水持ってくる」
「・・・ち、がう」
「ん?そうなんだ。でも、喉潤さなきゃね。顔も拭いてさっぱりしよう?」
健は小さく駄々を捏ねるみたいに、頭を横に振る。
仕方がないから、そのまま抱き上げて。
脱衣所に向かいタオルを取り、パントリーから温い水のボトルを出す。
しみじみ、軽くなったなと実感する。
俺でさえ、この騒動で、5キロ減ってて。
健はもっと痩せてしまっただろう、もともと、肋骨が浮く一歩手前の細すぎる身体なのに。
リビングのウィングチェアに座って、膝の上に抱っこしたままの健の世話を焼く。
ああ、キスしたいなあ・・・なんて、不謹慎にも思う、最低な俺。
静さんのところに行きたくなってて、
置いていこうとしてたの、健じゃん、なんて、恨み言まで浮かんでくる。
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