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”3” 王子、悔恨に呻く ‐1
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Side 爽
過去には、戻れない。
そんなこと、わかってる、わかってるけど
1時間、いや、30分。 欲張らない、10分前でいい。
何を引き換えにしてもいい、いっそ、この命だって交換してやってもいい。
戻してくれ、戻してくれよ、時間を。
戻れたのなら、絶対に、行かせない、健を、あの場所に。
行かせるんじゃなくて、留華を、留華だけを、教室に呼び込めば、
あの場に行かずに済んだんだ、健は。
そしたら、あんな目に、健を合わせないで、済んだんだ・・・。
◇◇◇◇◇
健が、静さんの死によって、心のバランスを崩し、内に篭ってしまったのなんか。
目の前の、本当の地獄絵図には、適いやしなかった。
俺達のいた、教室から100メートルもない廊下で
逃げ惑う人々と、悲鳴の騒音の真ん中に
変わり果てた姿で、健は、身体をくの字に曲げて、動かなくなっていた。
少し離れた場所で、血まみれになった留華が、誰かを後ろから羽交い絞めにし
その誰かは、哄笑し、目が完全にイっちゃってて
留華は、泣きながら、健の名を叫んでいた。
「中舟生!止血!!」
阿川が、別人のように鋭い声で、言い、健に駆け寄り、
キャメル色の、おろしたて~、高かったんだ~って、さっき言ってた
ジャケットを脱いで健の下腹部を、押さえる。
呆然としていた俺は、弾かれた様に、阿川に習い、健の上半身を抱き支え
白のジャケットを脱いで、胸の部分を圧迫止血する。
「誰か!先生か、救急車か!助けられる人、呼んで!!」
阿川の声に、医学生の卵たちは、やっと平静を取り戻す。
力の弱い女子達は、緊急を告げに走り、
男子達は、武に自身ありな者は、刃物を持つ男へ詰め寄り
自信のない者は、担架になりそうなものを探しに走り出す。
群衆に囲まれた男は、身を翻し、留華の背を取り腕を取ると
「寄るな~、コイツも死ぬよ~、クケケケケケケ~」
首にナイフを突きつけた。
背後を壁に守られた位置まで下がり、血走った男の眼光は惑う。
留華は、放せと抗い、死をも恐れぬ、切れっぷりで
奴の隙を見て、腕に噛み付いた。
痛みで緩んだ奴の腕を捻り、距離をとって離れる。
そして、また、男は、不気味に嗤い出した。
「愚民どもに、姫は渡さない。ワタシがちゃんとお供をしないと。また汚い虫がついては大変だ」
男達の輪が狭まる中、男は、宙に、誰に話すでもなく呟いて、
首にナイフを突き立てた・・・らしい。
男が、自害して果てた様子は、後で、聞いたこと。
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