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”3” 王子、悔恨に呻く ‐5
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警察と検事に、揃って叱られてたけど、よくやったと、俺は内心、褒めてた。
「西郷被疑者は、一年浪人し、九州の出身県から、この大学へ入学して。
橘さんの同学年の子達にも聞いたんだが、誰も、コンタクトを取ったことが無いんだそうで。
ただね、一人暮らしのアパートは、壁一面に、被害者の盗撮写真が貼られていて
ずっと、付け狙っていたのは確かだね。多分、君が、邪魔で近づけないようなことが
書いてあるメモのようなものが残されていて。君のことも、橘くんのことも調べていたようだ」
検事が目くばせすると、刑事が手にした写真の中から数枚を選び、俺と留華に見せた。
留華が息を吞み、俺は込み上げる吐き気を堪える。
カーテンを開け放しても、薄暗い汚れた部屋に、
ポラロイドのような写真やPCのプリンターから印字した画像が、一面に貼られた壁の、
俺と健のいろんなツーショットや、留華と親しげにする大学構内のカフェのとか
その全てに、俺達の方だけに、真っ赤な鋲が無数に刺さっている。
健は、無傷で、でも、何かが塗付けられ、乾いた跡がある。
そういえば、健が、最近、視線を感じるって気にしてた。
俺は、こんなに可愛い健に、横恋慕する厄介なチキンがいて見られてるだけだと。
そうでなければ、親父の俺の素行を見張る監視員の視線だろうと、楽観視していた。
「押収したノートパソコンには、二人の殺害を、ネットに流して依頼しようとしてるものがあった。
まあ、あまり、大っぴらにすれば、正体を突き止められるから、殆どがアップされる前の状態。
被害者の自宅付近の画像もあってね、前に住んでたご実家も今の住まいもセキュリティーが
しっかりしているから近付けなくて、張り込みをして行動を起こそうともしていたようだ。
ただね、被疑者は、あくまで、被害者を殺そうとしていたわけでは無いようで、
もう一度会って、自分を一番の守護者にして欲しいと願っていたようなんだ」
近藤検事より、中学のレイプ事件の調書コピーが、提示された。
「中学時代の彼等は、どうも、被害者を崇拝していたようでね。
美しく弱い姫を我々が、悪者全てから、お守りすると決めていたと言っている。
通学電車で、痴漢にあって困っているのを助けてから、毎日、一人ずつ曜日を決めて、
それぞれ通学時のボディーガードが通常業務で、それ以外にも、体調が悪いとか、
誰かに迷惑行為をされるとか、いろんな事で、中学の頃は、一方的に尽くしていたようだ」
「お祖母さんは、毎朝、毎夕、送り迎えをしてくれる彼らを見聞きしているし、
友人なのだと思っていたようだ。丹羽氏は、勿論、そんな事実もご存じなくて。
被害者は記憶を無くしてしまったから、彼らをどう思っていたのかわからない。
ただ、お祖母さんは、以前、彼らの名を被害者に訊ねたんだそうだが、知らないと言っていたらしい。
あまり関心がなさそうに、日替わりで曜日ごと、決まっているようだから、
それぞれを、月曜、火曜・・・って扱ってると言っていたそうだ。
金田は、その金曜日を担当している、少年だったんだね」
健は、周囲が言うには、その・・・クールビューティーな中学生男子だったようで。
今の、ほんわかキャラとは、別人のようだったらしいんだ。
留華もその辺りは、熟知してる。何せ、奴が惚れたのは中学時代の健だから。
「健は、めっちゃツンデレキャラだったし、気持ちが悪い奴らが居てウザいって
そいつらのこと言ってんだと思う。友達なんて学校にいないって、ウザいけど
虫よけ代わりにはなるから、放っておいてるって。・・・そいつ等に・・・されたんだ・・・」
留華は口元に手をやる。本気で吐き気が込み上げてるらしい。
「橘くんは、あの画像を一緒に見てしまったのよね・・・被害者が、その・・・」
「なんですか、画像って・・・」
「被害者の中学の時の事件の録画画像を見せられたんだ、被疑者にね。
我々も存在は知らなかった。被害者の携帯で撮影された静止画像はあったが。
その送信履歴で、金田を除く5人はすぐに身元が割れたが、金田には送られておらず。
これは推察だが、金田は個別に静止と動画で保存していたから不要だったんだろう。
我々も今回それを遺留品で確認したが・・・酷いものだったよ」
あの、被害後の健を撮影した写真。
丹羽さんが、俺に、知っておいて欲しいと見せた、健の携帯に残されていた凄惨な写真。
あれの・・・最中の、動画を、健が、見た・・・んだ・・・。
留華が吐きそうになるほどの、ショックな画像を。
なんて、何て残酷過ぎることを!!
その記憶を自らに封じ込めて、忘れてしまうことで、健は自我を守ったんだ!!
それを、健に、見せた・・・って言うのかよ、あのクソ野郎!!
怒りの衝動のままに、立ち上がり出口に向かった俺を、刑事が数人がかりで押さえる。
「気持ちは、気持ちは解るから!それに相手はもう、な?」
・・・殺せない、んだ・・・アイツは、死んでいやがるから。
屈強な刑事に逆らい、身動ぎながら、悔しくて、泣けてくる。
・・・留華も、泣き出した。
俺たちの想い人の辛過ぎる過去を、
留華は本人に打ち明けられ知っていても、覚悟もないのに、いきなり見せつけられ、
俺は、見ずに済んだけれど、容易に想像できる、画像を見ていた。
再び、座りなおらされて、俺は、弁護士が差し出すハンカチを受け取らずに袖口で顔を擦る。
見ず知らずのジャージ・・・ああ、これは横山のジャージだ。
ふと、血だらけの筈の留華を見る。留華も、また、だっさいジャージみたいなのを着させられてた。
今更ながら、留華の姿をまじまじと見る。
頬にはでっかいガーゼのカットバン。両手と首には包帯が巻かれている。
「・・・オレ、オレが、連れて、来なければ・・・健は・・・」
「慰めにしかならないけど、きっと、金田は凶行に及んでいた筈よ、今日でなくとも」
弁護士に背を擦られる留華を見つつ、検事は溜息を吐いて、首を横に振る。
「そうとは限らんな。続きを、教えてくれるか?」
刑事はおもむろに、手元の調書を捲って、重たい口調で続く。
「中学の事件の調書で、動機を問うた際、全ての少年が、異口同音に申し立てたことが、
『姫をこれ以上穢れさせないために、お仕置きをしたのだ』って、言い分があって。
調査の結果、これは、彼等の誤解が行き過ぎた行動に繋がったのだと判断した。
実際、年上の恋人らしき人とは、それは、丹羽氏の再婚相手の子息達だったんだし」
俺の方をちらっと見て、刑事は早口に言った。
「ただ・・・相手は判明しなかったが、その、被害者には性的関係にある何者かがあって、
その痕跡を見て、彼等は激情し、集団で、凶行に及んだと」
「今回の、動機は、その前回の動機に、当て嵌まるかも・・・知れんのだ。
橘くんも、被疑者が、急に怒り出したと言っている、その・・・俗に言う・・・」
「首のキスマを、見たら、人が変わったんだ、アイツ」
留華も、俺を、見ずに、床に向かって呟いた。
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