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”5” 王子と眠り猫 ‐5
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俺達が廊下に戻ると、圭介命名、医学生友人軍団は、帰る所だった。
横山は俺の肩を優しく叩いて、他の奴等は、悲しげな笑みを寄越して一礼してった。
病室の中では、諦めのつかない丹羽家の皆さんが、呼びかけを、小声でしてて。
丹羽さんが、おいおい泣いて、自らが不甲斐ないと俺に詫びてくれた。
留華は鑑に、まだ宥められながら、頑なに小声で「見たんだ、オレのこと。目が合ったんだ」と主張し
パンクミュージュシャン並みに、首を横に振っている。
病棟主任の看護婦に怒鳴り込まれ、居残り組みは全て撤去。
「あなた!ばれてないと思ってるでしょうけど、今夜からは見逃せません。ここは完全看護です。
面会時間以外は、誰であろうと、病室に留まる事を許しません!」
俺まで、騒動の迸りを食い、隠れてしてた泊り込みが出来なくなった。
主任看護婦の「状態は安定していて、急変はありえない」って主張は、煽てても縋っても、状況が変わらず。
俺は項垂れて、関係者非常口から、トボトボ出てきた。
「さっさと乗れ」
目の前に親父が、中井の運転する車に凭れて、俺を待ってて。
静かに怒りを湛える親父に、ひとまず、従ってみた。
俺のマンションに向かうと思いきや、着いたのは、東京に来てるときに大概親父が常宿に使うホテル。
急な上京だったんだろう、普通なら独りで泊まってもダブルの部屋を押さえる奴が、
ぎゅうぎゅうのシングルルームの一室で、今宵は我慢するつもりのよう。
俺に何の意見も聞かずに、さっさと大量のルームサービスと大吟醸の日本酒を頼んだ。
自分は、刺身の盛り合わせ程度なのに、俺にはビーフカレーと海老グラタン。
重すぎて食えないと言えば、食うまではここから一歩も出さんと言い切られ。
黙々と、21時過ぎに食うメニューじゃないと思いつつ、何とか完食した。
食い終えた俺の分の水の空きグラスに、酒をなみなみと注いで、刺身を押して寄越す、親父。
「あの子の目覚める日は、正直、誰にも分からんぞ。前歴もある。
今回の傷の方が、でかいだろうし。脳の損傷は、最低限で抑えられたって診断から
鑑みるに、心因性で目覚めないってことは判明した・・・分かるな?
お前が日がな一日側で付き添っていようがいまいが、覚めるときは覚めるし
本人に目覚めるつもりがない以上、緩やかに意識が戻りかけても、また睡眠することに逃げてく。
目安にしてた前回のショックで眠り込んだ中学の日数を超えた、今日の騒動にはぎょっとしたが
残念なことに、目覚めた反応はなかった。橘くんとあのダメ看護師の思い込みと見間違いだ」
俺は俯き唇を噛む。情動からも、むかつく胃の中のものを吐いてやりたいくらいだ。
「彼が長期で目覚めなかったら、お前は今のままのお前でいいと思っているのか。
彼が目覚めたときに、今のお前を、彼がどう言うだろうと考えたことがあるか」
「痩せて、覇気をなくして。腑抜けて虚ろになってて、幽鬼のようなお前の姿を、見せるのか」
低く落ち着き払った正論に、どうしようもなく怒りがこみ上げる。
「俺は!医者になんかなれなくてもいい!健がいないなら意味がない!」
「別にお前の意思なんかどうでもいい。お前、今の、お前、恐ろしく不様だ、わかるか。
そんな薄っぺらい情を振りかざすのは、当てこすりにしか見えんな。
襲われたわけでもなく、無傷で、普通に過ごせるお前が、何をしているんだ。
健くんは、お前を付け狙っていたヤツに、お前の代わりに傷を負ったも同然だろう、
いつまで自己憐憫に酔っているつもりだ、気持ちの悪い奴め、反吐が出るな」
親父のネクタイを引っ掴んで、殴り掛かろうと、俺はしてる。
親父は、一切、抵抗しないで、俺の激昂からする行為に仕返しもせず淡々と嫌味で応戦する。
「明日になるか、何ヶ月、いや、何年か後にもなるかもしれない。
無為にただただ、アホのように過ごし、待ち続けた結果の、
お前は薄汚い、ただの落ちこぼれた姿で、愛する人の前にそれを晒すんだな。
俺は、お前にタダ飯なんか食わせない。学生でもない息子に与える金はないから
行く行くは、高額な医療費が払えず、健くんを安全に眠らせてることも出来なくなる」
酷薄に嗤った親父は、まだ3分の2以上は残った四号瓶の酒を掴み
俺の頭から、ドバドバ、ぶっ掛ける・・・・・・。
「明日から、健くんには生命維持の処置をする。来週から、お前は、どうする?」
健は、言うなれば、ほぼ植物人間になる・・・。
「週末、結果を出せ。それ次第で、健くんは、家の病院に搬送する」
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