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”5” 王子と眠り猫 ‐11
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煎餅布団は、昨日のシーツを剥がされてて。
俺は半分だけかかった新しいシーツを起きて、全部に敷き直した。
空き缶や空き瓶で散らかり放題だった、1Kの8畳のワンルームが。
嘘みたいに、布団しかなくなってて。
「荷物は全部、このクローゼットに入っちゃうくらいしかないし」って
笑ってた、そこを、何気に開けてみると。
昨夜、一緒に見た、ポータブルDVDプレイヤーと、ラジオと、
ハンディークリーナーだけの家電品。
キッチンスペースに小さい冷蔵庫はあったけど。
あと、1週間ローテくらいしかない衣服。
少しばかりのリネン。
引越ししたてなのかと聞けば、すでに5年は住んでるって言う。
「居なくなった時に、すぐに片付くようにして、無駄なものは持たないつもり」と。
百哉は、昨日、そう言って、へらへらいつも通りに笑って、乾き物の封を次々破ってた。
どういう意味かは、アイツがし続けた独白を聞いた後だったから、問わずに理解した。
思わず、キスをして、求め返されて。
その後、無言で、百哉の怪我の治療をした。
散らかった道具類を片付けて。ナースコールで、後を頼んだ百哉は、俺の手を掴む。
行こうも嫌だも、なにも、お互いに発せず。
百哉に手を引かれたまま、病院の裏口を出て。
多摩川の河原をトボトボ歩いた先。
昨日、水を届けに来た、あの百哉の部屋だった。
「何にもないから、買ってくるね。任せてくれる?」
返事をしない俺を置いて、冷蔵庫から最後1本のビールを出して渡し、出てった。
百哉の買って来た、つまみと酒をただ、ただ、飲んで。
「音がないと寂しいね。これ、ぼくの持ってる唯一のDVDなんだけど、見よう?」
映画は、イタリア映画の有名な作品で。
泣ける映画ってだけ知ってて、見たことはなかったけど。
「これ、京哉に貰ったんだ。ボクの誕生日に。
誰かから貰ったけどつまんないしムカつくからって、押し付けたつもりだったみたい。
期せずして、誕生日だっただけなんだろうけど。嬉しくて、これだけは宝物」
俺が一言も話さない分、百哉は部屋の中では饒舌で。
きっと、何度も見てるからだろう、シーンの変わる度、柳が嫌いだと言ったポイントを言った。
ナチスドイツ政権下でホロコースト送りになった、ユダヤ系イタリア人の親子の話。
「京はさ、このいい加減な主人公の仕事ぶりがそもそも許せないって言うんだ。
ボクは明るくて、面白くていいなあって思っちゃってて。バカ同士だからかって皮肉言われる」
百哉は弟と4つ違いで5学年差。今は、25歳。
弟とは、腹違いの兄弟で、弟の母親が、今は、後妻として家に入っている。
元々は、愛人で、百哉が小3で実母が他界した後すぐに、庶子の弟を連れ、百哉の家に引っ越して来た女。
9歳になった百哉は、頭の中身も凡庸な自分より、外に出来た子だけど、
綺麗で賢いと評判の突然出来た幼稚園児の弟に、まったくその通りだと夢中になったそうだ。
「小さな頃は、お兄ちゃんって呼んで懐いてくれて、いっつもボクに遊んで~って言ってくれて。
すごく可愛くて。なんでもしてやりたいって、甘やかしちゃってた。
きっと、一目ぼれだったんじゃないかな、それからずっと、京しか目に入らなくって」
関係が変わったのは、百哉が中3の夏。
弟の叔父が、医師として、柳心療内科に勤務し出した事からで。
叔父は、甥に出来た腹違いの兄は、甥のことが、性的な意味で好きなことを気付いて。
「京の下着で、オナってるの、見られたんだよね、間抜け~。
でもさ、三橋さん、京にすごく似てて。大人になったら、こんな風になるのかなって
ついつい、見ちゃってたことあったし。まさか、ゲイでボクのこと抱きたがるなんて思わなかった」
性に目覚めたての、しかも実の弟に欲望を感じたことを、責められ追い詰められ。
幾度かめに、SEXに応じてしまった現場を、運悪く、弟に見つかって。
体面的に困る叔父は甥に、この子が淫乱で、自分を誘ってこういうことをしたと、
叔父さんは、イケナイ子に罰を与えたんだと言い繕ったんだそうだ。
加虐的な性的嗜好のあった男は、百哉を叩いたり、血が滲むほどに傷つけたりして関係を持っていた為、
性の知識も未熟で、更に幼かった弟には、叔父の言うことが刷り込まれてしまった。
「それどころか、三橋の家は、もともと、両性愛気質な男性が多いのかな。
京も、男の人と、したがるようになっちゃって・・・まず、標的は、身近なボクで。
ボクは、求められて、すごく嬉しかったけど。京は、すぐにボクに飽きた。
もっと綺麗な男の子達とする方が楽しいから、お前は、いいやって。
三橋さんにされてること、亡くなった父も気づいてたのに、病院を辞められたくなくて、黙認」
弟の叔父、三橋とかいう男は、病院の経費で、高級マンションを買い与えられ。
家庭がある身でありながら、百哉の身体の占有権をいまだに持っていて。
日々の殆どの夜、そこに行って、男の言うなりに、男もしくは、男の客人達に、身体を開いている。
「だから、京が、嫌だって思ったって仕方がないし。悪いのは京じゃない。
もう、ボクはいい大人なんだから、止めたいって、言えば止められるのに、断らない。
考えてみたら、ラッキーなのかって。ゲイのボクが抱いてもらえるんだもん、感謝かなって」
平凡で何の苦労も見えなかった、百哉は、けっこうな苦労人だった。
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