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”5” 王子と眠り猫 ‐14
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勢い立ち上がって、呆然と、その待ち望んだ知らせを噛み締めんとする俺。
「佐藤くん、軽はずみな!まだ確証がないんだから、考えて発言しなさい」
口走った、天パーくん、あ、佐藤って言うんだったのか。
佐藤研修医を窘める鷲尾医師の神経質そうな顔の額に青筋が浮かぶ。
「すまない、座って話そう。私の分析と推論を。柳くんからのさっきの報告は後回しにさせてもらう」
首を竦める佐藤に、椅子を示され、俺は二人と共に長いベンチに腰を下ろす。
がさがさと資料にする書類を漁りながら、鷲尾医師が語ったのは。
健は、ずっと起きていたんじゃないかって推論。
言葉は悪いが、狸寝入りをしていたんじゃないかって。
脳波が健が目覚めた騒動があった4日目の時に、微妙な変化を見せて。
それから日々、その微妙な変化が、脳波に現れていて。
4日目以外、全部、夜中だったこと。
でも、植物状態になった患者の脳には、間々あることだからと、見落としていた、佐藤医師。
しかし、転院してすぐに、柳心療内科の夜勤ナースが妙な噂を立て始めた。
あの子は、真夜中、目を開けて、自分を見つめると。数人が、同じ体験をしていて。
「ただ、あの病院の部屋って、何年か前に完全な植物状態の子が入院してて。
ナースが過失で機械止めちゃって、殺しちゃった~なんて部屋だったりして。
しかも、それが、けっこう有名人の関係者だったから、大騒ぎになって。
その子の怨念が憑いてて、お化けを見たんじゃないの?って片付けられてたらしいんだよね」
怖がって、夜勤を皆、やりたがらなくなって。それとゴールデンウィークで、休みを欲しがるから。
この期間は百哉と非常勤のパート看護士が二人で回してたらしい。
「脳波計外してしまったからね、今も同じ、波形を取っているかはわからない」
「再びつけては・・・」
「ああ、柳にはその機械が古くて壊れてる。健くんが使ってたのは、大学のを貸し出していたんだ」
だから、今月になって引き上げられちゃったんだな。
「私の推論を話したら、一昨日から、柳くんが個人的に健くんに四六時中ついて見ててくれる事になった
波形が現れない日もあるって言ったんだが、見張るの一点張りで。彼は、情熱のあるいいナースだね」
俺は、思わず、唾液をごくりと飲み込む。
「モモも、いや、柳さんも・・・見たんですか?」
「今日の午後、目を開いて、彼の顔をじーっと見て、興味がなさそうに、また目を閉じたらしい。
1分近く見詰め合ったらしいから。声をかけようとする前に、目を瞑られて。
それからは何をしても目覚めないって。さっき連絡をくれた時、以外はまだ張り付くつもりだから
追って経過を知らせるって言ってくれてる。しつこく呼び続けてるみたいだからね」
健は時々、そうして目覚めているのならば、間違いなく、心因性の乖離症状。重度過眠。
「俺も、行って呼びかけします。いいですよね?」
「いや、君は少し待って欲しい。・・・・・・嫌な予感がするんだ」
「嫌な、予、感?」
「中学の時のこと、聞いているかい?」
「事件のことですか?はい、静さんと丹羽さんから」
「うん、話は早いね。あの子ね、前も、したんだよね、狸寝入り。何でだと思う?」
鷲尾医師は、珍しく瞳を惑わせた。
「あの子、中学1年に記憶が戻っていたろう?で、その起きなかった理由は。
『お祖母ちゃんが起こしに来なかったから』、なんだよ。
佐倉さんが声をかけるまで起きないつもりだったんだって。
後で、これは彼女が思い出してくれたんだが、中学1年も3年の時も、朝、佐倉さんと軽い口論をして
それを謝れなかったって、共通点があった。記憶が幼く戻った健くんは、
祖母ちゃんが怒ってるから、自分を許して、起こしに来るまでは、起きるものかと思っていたんだって」
すっぽり抜け落ちた記憶の境目。
鷲尾医師が言うには、そのキーになってるすぐ後の忌まわしい記憶を忘れるために
その似ている軽度の気掛かり二つを結んで、間を消失させたのじゃないかと考えたんだそうだ。
つまり、目覚めない。もしくは、この推論通りなら、起きたくない理由を。
何かにリンクさせて、また、記憶を忘れている可能性が・・・・・・あるってこと、だ。
「あ、あくまで!!う、推論、推論なんだから。ちゃんと起きてるかどうかもわからないんだしね
まだ、決まったわけじゃないんだ、様子を見よう。なるべく健くんに強い刺激を与えない人物に
過去の、健くんが信頼してる人物に、来てもらおう、ね?」
佐藤医師の、動揺しきった声。
「・・・・・・そんな人、誰もいません」
「え?あ、あのお父様とかではどうかな?」
髪を、掻き毟ってた、俺は。我知らず。
「そんなの、静さん以外、居る筈ない。もう、静さんは・・・いない・・・んだ」
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