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”7” 目覚めよ、王子の猫 ‐6
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俺は、出会った頃の健を思い出す。
小顔で、思いを込めたら目力半端ない黒目勝ちで琥珀色の光彩の瞳孔を持つ大きな攣り目を
隠す為にしているんだろう、銀縁の分厚い眼鏡と長い前髪。
髪は、そうだな、前髪だけに限らず、長めで、あえて整えてない感があった。
朝、櫛を通しただけな感じ?もちろん整髪剤とかは無縁で。
でも、さ。触るとつるつるした細い髪の毛で、猫っ毛で、嫌だって本人は言うけど
撫でてるだけで、癒されるんだよね。
髪の毛だけじゃなく、全体的に色素が薄目だから、肌も抜けるように白い。
項もすらりとして、それを隠して余りある程度には髪が伸びてた。
俺と付き合うようになって、そこまで極端に、身を隠すような髪型じゃなくなったけど
他の人に触られるのが嫌で、静さんに散髪してもらってたんだそうだ、記憶喪失後は、ずっと。
俺が地元で通ってた、美容室に初めて連れてった時、怖がって、すっと俺の手を握ってた。
その、美容室も、メンズオンリーの、まあ、俺の昔の遊び仲間がやってる店で
少しずつ、他人の手に慣れてもらったんだったな。
今、伸びた髪は、芸能人御用達な、腕のいいオネエの美容師が切ってるものだから
伸びても、元のカットがいいから、どうしようもないみたいには見えないけど。
顔のパーツも珠玉で、バランスもいい。
唯一、ちょっと下唇がぽってりしてて、薄く口を開かれると、エロい感じになっちゃう所を
本人は、ものすごく嫌ってる。俺は、かなり、好きなんだけどね。
(だから、普段は気を抜かなきゃ、ぎゅっと引き気味で噛み気味にしてる、
それって、かっぱ口とか言うらしいね、って本人に教えたら、「これからどうしよう」って
すごく悩んじゃってさ~、すんげえ可愛かったんだよなあ~)
泣き虫な証なんだろう、左の目元に、すっごく小さい黒子があって。
それ以外、顔に黒子はない。
首や肩にはけっこうあって、これはそういう関係になるまで知らなかった。
だって、夏でも、健って、制服は、襟の詰まった白の長袖カッターシャツ着てるんだもん。
今、思えば、静さんって、健の綺麗さを晒さないように、してたんじゃないかって。
俺が交際してて、俺に守ってもらうんだって、静さんが思ってくれなきゃ、
きっと、今も、あのダサい髪型に、隙のない服装で、人の陰に隠れてるのかもしれない。
画面を通して、目の輝きが、ぼんやりしてる健を見ていて
あの強い眼で睨んだり、唇を引いたり、特徴的な表情をしないことが寂しく思ってる。
自分の身なりを、気にする余裕もないのだろうけれど、
目を開けてる健は、側で見れないだけに、ちょっと他人に見えてしまう。
佐藤医師の一言で沈黙してしまった俺を、何とか、暴れる小田を宥めて、
ぐずぐず泣いて謝るノダカナを庇う必要がなくなった阿川が、気遣ってそっと腕に触れる。
「あ、ごめん。大丈夫だから。野田さんも、何か考えがあってやっちゃったんでしょう。
大丈夫、健、落ち着いて眠りそうだから、見て?」
効果が早い睡眠薬が使われたんだろう、健は大人しくなってるみたいだ。
圭介も安堵の表情で溜息をついてる。
女性陣は、それを食い入るように見て、圭介も視線に気づいたのかカメラに向かって腕で丸を作って見せてくれた。
後を、百哉に託し、圭介が部屋を出る。
程なくして、階数が上のこの部屋に来ると思われた。
「で、野田さんは、どうして、予定外のことをしようって思ったのかな、相談もなく」
「制服のこと、静さん、すごく大切にしてて、あたしも大切で。昨夜、ああ、健くん、自分の着てた制服のことも忘れちゃったんだなって思ったら、それだけは許せなくなっちゃって。だって、あたしの大好きだった時間の象徴じゃんか。あたしのことは忘れちゃったの悲しいけど、せめて高校時代の風景を少しでも見せてあげたくなって・・・・・・」
しゃくりあげながら、ノダカナが語る。
言い訳というよりも、なんだろうな、きっとこれって・・・。
俺が、返す言葉を探していたら、小田が、すごい勢いで、ノダカナに掴みかかる。
「ふざけんじゃないわよ、あんたのノスタルジーを言い訳にしないでよ!」
「・・・忘れるってそういうことよ、お二人さん」
阿川が、イラついて座った眼で、二人の頭上に、拳骨を振るった。
「え?え?な、何?何が起きてんの?」
圭介が置き去りになってたケーキの箱を手に戻って来て、
ソロがユニゾンになった、ノダカナと小田の大きな泣き声に、入口で二の足を踏む。
「友香オネエサマの鉄拳が効き過ぎたのかもね」
俺と阿川と、佐藤医師は、なんだか可笑しくなってしまって、笑ってた。
・・・・・・訂正。泣き笑って、た。
◇◇◇◇◇
幸いなるかな。
健は、薬効の時間だけしか眠らず、翌朝、自ら、目を覚まし。
付き添っていた百哉に、タブレットを持って来させて、自分の意思を伝えた。
『おばあちゃんの死は、認めます。僕は、どこに帰ればいいのですか?』
『退院、させたいんでしょう?看護婦さんと綺麗な顔の男の人が言ってました。
早くしたいです。僕は、どこに帰ればいいか、知っていたら、教えて下さい』
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